入学の季節
独身寮に戻っていた息子から電話で、博士課程の合格通知が来ていたとのこと。
その確認や手続きのために、帰っていたみたいだ。
社会人ドクターは、仕事との兼ね合いが難しいだろうけれど、本人は研究が何より好きだから、大変でも真の悦びはそちらから来るのだろう。
息子の場合は、そのままストレートに博士課程に進むには金銭的に無理があったので、社会人ドクターという選択肢しかなかった。
息子が研究者タイプだということは早い時期にわかっていた。娘は研究者タイプではないと思ったが、学校の先生から純粋培養したみたいだといわれるようなところがあり、身を守るためにも、娘にも学問が必要だと感じた。
それでわたしは、子供たちの学費のことを考え、狂おしいまでに作家になりたくて賞狙いに走った30代、40代だった。
病気にならなければ、パートに出ていたかもしれないが、夫は家事に協力ができない不器用なタイプであるばかりか、羽目を外すところがあるから、外に働きに出るのは怖いということが第一にあった。自分より7歳も上の男性をしつけ直すのは至難の技だ。結婚するまでは、そうしたタイプの男性ほど、よきアッシーくんである。
で、内職に手をつけてみたが、被害は少なかったとはいえ、どちらかというと、騙されて終わった。そうこうするうちに病気から来る症状も無視できないものとなって、働きに出るのはますます難しくなり、プロになるしか、選択肢がないところまで心理的に追い詰められた。
賞の落選がわかるたびに、地団太踏み、髪を掻き毟って泣いた。自分より明らかに書けない連中が、どんどんデビューしていく。そんな傾向は、現在に至るまで変わっていない。
落選すると、高いところから地面に叩きつけられる気がした。それでも、賞狙いしかないと思い、何度も、何度も、チャレンジを繰り返した。すぐ目の前にぶら下がった人参が、手を伸ばしたとたんに、ふっと目の前から消え、他人の口に入っているのだ。地獄みたいな日々だった。
子供たちを、不甲斐ない自分の惨めな人生の道連れにしてしまうと思い込んだ。
文学界の裏事情を知った今、その頃に作家になっていなくてよかったと思う。おそらく飼い殺しのその他大勢になっていたことだろう。そして、心配した息子は自分の力で研究の道に入った。
息子の場合も、就活で困難を極め、もし狙っていたような企業に入っていたら、それはそれでよかったのかもしれないが、社会人ドクターになる環境を調えることは難しかったかもしれない。今の会社に入ってからも、所属するはずだった部署が入社したとたんに潰れるなどのアクシデントがトリックスターとなって、社会人ドクターになることを可能にした面もあった。
今、息子はわたしを励ましてくれている。わたしも今は打算からではなく、社会の現状と自身の潜在能力を考えた判断から、世に出たいと考えているので、時間はかかっても、息子の気持ちに応えたいと思っている。
息子にはもういったけれど、ブログにも刻んでおきたい。
息子よ、合格おめでとう!
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