Notes:不思議な接着剤 #48/童話の舞台、中世風の町を考える/『レンヌ・ル・シャトーの謎』を読む #2
Notes:不思議な接着剤は、執筆中の自作の児童文学作品『不思議な接着剤』のための創作ノート。
#48
2010/3/31(Wed) 童話の舞台、中世風の町を考える/『レンヌ・ル・シャトーの謎』を読む #2
マイケル・ベイジェント、リチャード・リー、ヘンリー・リンカーン『レンヌ=ル=シャトーの謎』(林和彦、柏書房、1997年)からの以下の抜粋は、歴史的事実を描いたものだ。そう思うと、本当に怖ろしい。
62-63頁
1209年、約3万人の騎士や歩兵からなる軍隊が、北ヨーロッパから怒涛のようにピレネー山脈の北東の麓、現在の南フランスにあたるラングドック地方を襲った。この戦争によってラングドック全域が破壊しつくされ、作物は荒らされ、都市や町は蹂躙され、ほとんどの住民が刃に倒れた。この絶滅行為は恐ろしい規模で徹底的に行われ、近代ヨーロッパ史上、最初の「大虐殺」と位置づけられている。たとえば、ベジエの町だけでも、婦女子を含めて少なくとも1万5千人が、しかもその多くが教会という聖域で殺された。ある指揮官が、どのように正統と異端を区別するのかと教皇の代表団に問うと、「すべて殺せ。神は自らの民を選びたまう」と答えたといわれている。この有名な逸話の真偽はともかくとしても、暴虐をつくすにあたり、いかに狂信的な情熱と血に餓えた行動をしたかをよく言い表わしている。その教皇の代表団がローマのインノケンティウス3世に宛てた手紙には、「年齢や性別、地位を一切考慮せず、すべてを殺しました」と、誇らしげに書いている。
侵入軍は、ベジエに続いてラングドック全域を掃討していった。ペルピニャン、ナルボンヌ、カルカソンヌ、トゥールーズがすべて陥落し、勝者の立ち去ったあとには、大虐殺の血と死の痕跡しか残らなかった。
ほぼ40年も続いたこの戦争は、今日アルビ[アルビジョア]十字軍として知られている。これはまさに文字通りの十字軍で、教皇自らが呼びかけた戦争であった。パレスチナの十字軍と同じように、この十字軍の参戦者も上着に十字架を縫いつけていた。参戦の報酬も聖地の十字軍と同じで、すべての罪の免罪や贖罪、天国の約束、さらに略奪の戦利品が約束されていた。そのうえ、この十字軍は海をわたらなくてもよかったし、略奪に興味のない者は、当時の封建法によって40日以上は戦わなくてもよかった。
この十字軍が終わるとラングドックはまったく変り果ててしまい、ヨーロッパのほかの地域のような野蛮な土地に逆戻りしてしまった。
13世紀初頭、現在のラングドック地域は正式にはフランスの一部ではなかった。ここは独立した君主が統治しており、言語や文化や政治体制も、北フランスよりはスペインのレオンやアラゴン、カスティーリャ王国と多くの共通点があった。統治する貴族も数多くいて、なかでも代表的なのはトゥールーズ伯やトランカヴェルの有力一族であった。これらの君主たちのもと、当時のキリスト教国のなかではもっとも高度で洗練された文化が栄え、これを凌ぐのはビザンチンくらいしかなかった。
戦争が40年も続いたという。40年……! 寿命の短かった中世である。一生を戦渦に過ごした人々も少なくなかったに違いない。十字軍の参戦者に約束された天国なるものがどんなものなのか、わたしには想像もつかない。
アルビ十字軍が怒涛のようにラングドック地方を襲ったのが1209年。この戦争はほぼ40年続いたのだから1209+40=1249。1249年……13世紀半ばまで。法王グレゴリウス9世が、南仏における審問法廷設置を命じたのは、この間の1233年。わたしがモデルとしたいと考えたのは1250年。凄腕の異端審問官ジャック・フルニエがパミエの司教を勤めたのは1317年から26年。
戦争が何とか終わっても、異端審問は続いたのだ。
わたしは荒廃した町を描かなければならないのだろうか? ネット検索してみると、現代のその地から、ブログを発信しているかたがあった。その地は、今なお寂しいところのようだ。
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