のだめ、だめじゃん…シネマ『のだめカンタービレ最終楽章 前編』の感想
Yahoo!映画レビューで閲覧した『のだめカンタービレ最終楽章 前編』の評判は比較的よかった。オーケストラの演奏に臨場感があってすばらしいという感想も、複数あった。
最近オケを聴きに行けなくて飢えていたわたしは、コンサート気分を味わえるのではと淡く期待して出かけた。
といっても、映画に生演奏と同じ種類の感動を求めるつもりはなかった。映画ならではのオケの描きかた、劇場ならではの大音響をうまく活用した映画的昂揚を期待した。のだめ(上野樹里)・千秋(玉木宏)というコンビの活躍も、原作者二ノ宮知子のファンとして当然ながら期待した。
前後編仕立てという映画構成は、シリーズ物でも一話完結を暗黙の了解としてきた、これまでの映画提供のありかたを覆すやりかただが、そうするだけの何があるのか、知りたいとも思った。
そして、期待は裏切られ、作品作りの甘さと商業主義の厚かましさを感じさせられただけだった。
ドラマのほうがよかった。映画に比べると丁寧に作られていて、ストーリーにめりはりがあった。
ピアニストを目指す若い女性――のだめのハチャメチャなキャラに包まれた心が時折、星のように孤高に光る。そんなのだめを誰よりも理解し、見守りながら、同じ音楽家として脅威も覚える中で自らも成長しようとする千秋。ふたりの絡みが、若者らしい爽やかさで描かれていた。
ところが映画では、そんな事前の了解を観客に期待した横着さからか、唐突に始まり、間延びしたような工夫のないストーリー構成の中、これ見よがしに押しつけてくるパリの景観、大音響の音楽に寄りかかった手抜き手法がまる見えで、うら悲しくなった。
前編の終盤でとってつけたかのように強調されるのだめの芸術家の卵としての苦悩は、説得力を欠いた。アニメや人形の使用は過剰だった。脇役たちの扱いはいい加減だった。
生の演奏だと立体的に感じられる音楽が平板に感じられたのは、録音というものの限界から来た部分もありはしただろうけれど、それ以上に、映画作りの緊張感のなさに原因したのではないだろうか。せっかくのよい演奏が生かせていなかった。玉木宏扮する千秋の指揮ぶりも悪くはなかっただけに、もったいなかった。
前後編にしなければならなかった意味など、何も見い出せなかった。
原作の軽やかな味わいは、映画になったばかりに、どきつい、雑なものにトーンダウンさせられていて、気の毒だった。
が、娘は結構気に入っていたようだ。夫は『サロゲート』を観て、もう一つと感じたような口吻だった。
わたしは家で留守番して、恐竜の図鑑を見ていたほうがよかった(出かける前、自作童話に登場させる竜の参考とするため、図鑑を見ていた)。
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