Notes:不思議な接着剤 #38/異端審問官とのやりとり#1
Notes:不思議な接着剤は、執筆中の自作の児童文学作品『不思議な接着剤』のための創作ノート。
#38
2010/2/23(Tue) 物語の細部を考える#1/異端審問官とのやりとり#1
うちの子たちが小学生の頃に使っていた、ジュニア用の歴史図鑑をとっておいてよかった。最近出た図鑑もチェックしておきたい。紘平の歴史の暗記度・理解度をどの程度のものにするか?
紘平は、異端審問官に答えて、いいました。
「ぼくたちは、異教の地から来ました」
――少なくとも、キリスト教が国教というわけではないからね。
異端審問官は眉根をぐっと寄せて、うっすらと微笑をうかべました。「異教の地だと? マニ教の地から来たというのだな?」
紘平はマニ教ときいて、とまどいました。マ二の秘法は、紘平が熱中したことのあるゲームの必須アイテムだったからでした。
「えっと、そうですね。ぼくたちの国にはいろいろな宗教が存在しているんです。もちろん、あなたがたのキリスト教だってありますよ。キリスト教を国教と定めるまえのローマ帝国を想像していただくと、よいかもしれません。一つの宗教を信じている人もいますが、正月に神社へ行って願いごとをし、盆に寺の坊さんをよび、クリスマスにサンタクロースのプレゼントを待つ人がたくさんいるんです。信じられるのは、飼っている動物だけとか、お金だけとかって人もいます」
もっとも、ザビエルによって日本にキリスト教が伝わったのは1549年、室町時代のことでした。13世紀のこの頃は、日本では鎌倉時代にあたります。仏教の革新運動が進んだ時代でした。元寇の勝利によって、日本は神の国であるという『神国思想』が生まれた時代でもありました。
異端審問官の頭は、紘平のわけのわからない回答に、混乱していました。
「おまえは、何者なのだ? そして、どこから、何の目的で来たのか? わかりやすくのべよ」
アジア、といえば、それだけでも、いくらかは通じたでしょうが、紘平は自分の国と身分を表現する、古風でわかりやすい言葉を記憶にもとめて、聖徳太子の飛鳥時代にまで、さかのぼってしまいました。
――そうだ、小野妹子だ。
「ぼくたちは、アジアの日出づる処から来た、親善使節の一行です。よきにおはからいのほどを。異端審問官さま」
紘平はうまく答えたつもりでしたが、平静をとりもどしていた異端審問官は、眉根を寄せただけでした。異端審問官の頭のなかは、聖徳太子とも、また紘平とも、ちがっていたので、アジアの日の出るところから来た、という紘平の言葉は、異端審問官には特殊な印象をあたえました。
中世ヨーロッパでえがかれた『TO図』とよばれる世界地図では、大陸は3つにわけられていました。上半分がアジア、左下がヨーロッパ、右下がアフリカでした。世界の中心はエルサレムで、上のはしっこにはエデンの園があるとされていたのです。
異端審問官は、きびしい口調でいいました。
「その親善使節の一行が、ローマ教皇のもとへはおもむかず、魔物がすみ、魔女のうたがいのかかる人物がとらわれている洞窟に、何の用があったというのか? その目的をのべよ」
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