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2010年2月27日 (土)

Notes:不思議な接着剤 #42/司祭の幽霊/子供たちの所持品

Notes:不思議な接着剤は、執筆中の自作の児童文学作品『不思議な接着剤』のための創作ノート。

#42
2010/2/26(Sat) 物語の細部を考える #3/司祭の幽霊/子供たちの所持品

〇司祭の幽霊

 囚われのマリーのもとにある日中、死んだ司祭の幽霊が姿をあらわす。純文学小説の題材にするはずだったが(それはそれとして書くかもしれない)、このネタをここで使うのも面白いかもしれない。マリーはその話を子供たちにする。

 面白いなどと書いてしまったが、勿論、これは真面目なテーマなのだ。

 以下は、小説のためのメモ。

 窓から木の枝が入り込むばかりだから、生者Aは2階に住んでいる。が、死者Bはその窓から入ってきたわけではない。

 気づかれないと思っていて、勝手なことを心のなかでつぶやきながら、この世に残された滞在時間を使って、BはAの本棚に何があるのか見にきた。

 だが、生者AにはBの心のなかのつぶやきが断片的に聴こえている。というのも、Aはときどき相手との距離の遠近とは関係なく、他人の心で紡がれる断片をキャッチすることがあり、心というのは、人が生きていようが死んでいようが性質が同じであるため、Bの心のつぶやきもキャッチしてしまったというわけだった。

 Bは、本棚を見て、何だこんなものか、普通じゃないかと思う。そのつぶやきが、Aを怒らせる。Bのその現在のありようが、自分の観察と思想の正しさを立証しているではないかとAは思うのだ。こんなときまで、自分をこの世的鋳型にはめようとしているBを殺したいほど憎らしいと思うが、残念ながら相手は死んでいて、ここにいる……

 自身の説教通りにはならなかった司祭。天国へ召されたはずの司祭が、鍾乳洞にあらわれた。

 マリーの異端審問に関り、その期間中に高齢だったため、風邪から肺炎になって死んだ司祭は、死後もマリーが魔女だったかどうかの好奇心を抑えられなくなってこっそりと見に来たのだった。魔女らしくない、普通に見えるマリーにがっかりする司祭。司祭のその俗っぽい行動を感じて、驚くマリー。

 死んで金メッキの剥げた司祭と、具体的な様々な知識をもたらして行方をくらました錬金術師の父親(時空を超えて商売の手を拡げる者たちにさらわれた)。

 人間の死後について、どちらのいったことが正しいのか、マリーにはわかりませんでした。でも、あの司祭さまにかんしては、あてはまっていました。

 マリーのおとうさんは、錬金術師でした。家には、あつい羊皮紙の書物がたくさんあり、実験するための道具がありました。

 おとうさんは物知りでした。人が死んだらどうなるのかというようなことも、おとうさんは知っているようでした。

「死んだ人は、7日のあいだ、透明な人になったようにすごすのだよ」と、いっていました。その期間をどう活用するかは、その人にまかされているようです。家族や友人にお別れをするために、その期間を使おうとする人が多いでしょう。

「心で心に語りかける第1歩は、こうして、この世からはじまるのだよ。たましいのよちよち歩き、とわたしはいっている」と、マリーのおとうさんはいいました。7日がすぎたら、その人は、来るようにいわれた場所へとおもむくのだそうです。

 でも、マリーの生まれたこの地方では、この時代に、そんなことをいえば、異端者と呼ばれ、下手をすれば、火刑台にのぼらなければなりませんでした。異端者は、間違った考えから、社会を混乱させ、悪魔につかえて正しい人を地獄へ落とす手伝いをすると思われていたからでした。

 人は、死んだらすぐに、天国か地獄か煉獄に行くことになっているからです。

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〇鍾乳洞に出かける際の子供たちの所持品について。

 子供たちは一番上にウインドブレーカーを着、紘平と瞳はリュックサックを背負う。

①LEDのヘッドランプ(紘平)、ランタン型ライト(瞳)、ストラップ型ライト(翔太)

②お菓子の詰め合わせ
 チョコレートとクッキーの詰め合わせ。捕まった時点では、少し残っている。

③ティッシュ、ハンカチ、おしぼり

④恐竜のフィギュア
 翔太のポケットに入っている。

⑤ステンレス水筒

⑥レジャーシート

 子供たちは捕まりそうになったとき、ライトは現代的すぎると思って隠すが、服装自体が異質ではある。異端審問で、紘平は最初の穏和な異端審問官に、お菓子とティッシュを、文明国から来たことをアピールするために証拠物件として提出する。

 それらの品物は、趣味のよい、教養も深い異端審問官を驚かせる。しかし、当然ながら、それらが魔法の技によるものではないかとの疑いも異端審問官に抱かせる。

――中世のヨーロッパそっくりの世界に来ることがわかっていたら、香辛料、そのなかでもサフランを持ってくればよかったわ。わいろとして、使えたかもしれないのに。

 と、瞳はざんねんに思いました。

 本に、サフランはひじょうに高価で、「同じ重さの金と比べものにならないくらいの値段」とあったことを、思い出したからでした。

 サフランでしたら、瞳の家のキッチンのたなに、びんに入ってありました。おこづかいでスーパーマーケットのサフランを買いしめて持ってくれば、この世界では、大金持ちになれたことでしょう。

 以下は、J・ギース、F・ギース『中世ヨーロッパの都市の生活』(青島淑子訳、講談社学術文庫、2006年)より抜粋。瞳が本で読んだサフランのくだりも、この本からの引用。

部屋に窓はあるが小さく、油を塗った羊皮紙で閉じられているため、昼間でも暖炉の火が室内の照明代わりだった。オイルランプが壁から鎖で吊るされているが、その火は外が完全に暗くなってから灯されるのが常だった。家庭の主婦たちはロウソクも節約していた。料理用の脂をためてはロウソク職人に渡し、安価なロウソクを作ってもらうのである(煙がよく出て、刺激臭のするのが難点だった)。蜜蝋を使ったロウソクは教会か、儀式のときしか使用されなかった。

塩は安いが〔略〕コショウは〔略〕高く、砂糖はもっと高かった。ハチミツも高級品だった。中世の食卓においては、甘味料は希少価値だった。

紙も紙製品もなかったし、チョコレート、コーヒー、紅茶、じゃがいも、米、スパゲッティ、ヌードル、トマト、カボチャ、トウモロコシ、ベーキングパウダー、重曹、ゼラチンもなかった。かんきつ類はめったにお目にかかれないごちそうだった。

 上は、1250年におけるトロワの人々の生活なので、南フランスとは若干違う面があったのかもしれないが、参考にできるだろう。

 前掲の本に、「主婦は自宅の庭で栽培したハーブを多用していた」とあるので、マリーが錬金術師の娘でなくても、ハーブを用いて翔太の喘息の症状を改善させることは可能だったかもしれない。

 マリーは囚われてはいたが、彼女と親しかった近所のおばさんたちからの差し入れが豊富にあった。そのなかに子供たちが食べてもいいくらいの食べ物やハーブもあったことにしよう。いく晩か、子供たちはマリーにごちそうになるのだ。捕まってからは、食べ物は与えられる。

 瞳にお洒落なキャンドルとライターを持たせようかとも考えたが、火遊びになるので、やめた。

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