これから観たい映画…バートン版『不思議の国のアリス』、太宰原作の『人間失格』(荒戸源次郎監督)
木曜日に観た『Dr.パルナサスの鏡』の感想を書きたいけれど、時間がとれない。
撮影半ばで逝ったヒース・レジャーの代役を、3人の親友(デップ様もその1人!)が務めて映画を完成させたという。幻想仕立てであったために、それが可能だった。
シュールな映像、錬金術的な趣向とわたしの趣味に合った映画だったが、それだけにタロットカードの『吊られた男』や、ペルシャ辺りの古代文明を連想させる僧院の用いかたなど、もう一つ食い足りなさが残った。
もっと詳しい映画案内を書きたいが、自作童話に集中しているので、そのうち時間があれば書きたい。
今後観たいと思う映画は、1番にティム・バートン監督『アリス・イン・ワンダーランド』。デップ様が登場する。予告で観たデップ様は、『チョコレート』のデップ様を想わせるけったいな扮装で、思いっきり弾けていた。4月が待ち遠しい。
『Dr.パルナサスの鏡』でもデップ様を観ることはできたが、代役という役どころを心得ているかのように他の代役と歩調を合わせていて、少し物足りなかった。ヒースは、人間的な温かみを感じさせる、今時珍しい、何というか真っ当とでもいおうか、正統派の薫りのする俳優で、若くして亡くなったのは惜しい。
ただデップ様のあのとぼけた味わいは、ヒースにも、他の代役にもないもので、改めてデップ様に惚れてしまった。それにしても、『アリス』に垣間見たあの扮装……。童顔であるからこそ、けばけばしい化粧も海賊の険しい扮装も、下品にならず、粗野にならず、ユーモラスな、なつかしいといってよいようなムードを醸すことが可能なのだろう。
他に、メリル・ストリープが出るナンシー・マイヤーズ監督『恋するベーカリー』、荒戸源次郎監督『人間失格』。
『人間失格』の原作は太宰治。太宰の作品は学生時代にずいぶん読み、のめり込んだり拒絶したりと忙しかったが、無視することが難しい作家であることは間違いない。
わたしはあまり力の籠もりすぎた作品よりも、軽く流したような作品が好きだ。『フォスフォレッセンス』とか『古典風』とか。
太宰の暗さは、家父長制と切り離せない。
戦前の家父長制の時代からすると、地域とのつながりも核家族の形態すらも崩壊しかけた現代日本のさまは対照的にも思えるが、一個の人間として生きることがなかなか許されなかった時代に生きた太宰の疎外感・孤立感は、社会にも家庭にも居場所の得にくくなった現在人の疎外感・孤立感に、その深さ、深刻さという点で共鳴し合うものがあるのかもしれない。
また、薬物中毒も大きな要素であるに違いなく、今のわが国で、眠剤や抗精神病薬などの薬物がネットを通じて売り買いされたり、馬鹿に沢山処方されたりと異様な状態にあることを考えると、薬物中毒に苦しんだ太宰の分析は急務だろう。これまでにも太宰に関する評論は多く書かれてきただろうが、新らしく、分析の光を当てる必要があるように思う。
今、自殺者も増えているが、太宰の友人だった山岸外史による『人間太宰治』(ちくま文庫、1989年)という重厚な回想記では、太宰、そして太宰と心中した女性の死体の描写が克明になされている(相手の女性のほうが熱心で、太宰は道連れによさそうな人であれば、誰でもよかったようだ)。東京帝大の哲学科卒、日本共産党員だったこの友人の筋金入りの気質がわかるような筆致に息を呑んだ。
それでも、病気だった太宰の死はすみやかにやってきたのか、死に顔は比較的穏やかだったようだ。健康だった女性は死ぬまでに時間がかかったらしく、苦悶して死んだことが明白であるような描写は怖ろしかった。いや、いずれにしても、二つの死体の描写は怖ろしかった。
フローベールの『ボヴァリー夫人』の中で、ボヴァリー夫人が毒を呷って死ぬさまを克明に描出したあのぞっとする箇所を読んで以来の戦慄を覚え、自殺した人間の肉体の凄まじさをあそこまで描かれると、自殺への誘惑などは吹き飛んでしまう。
写真や映像以上の何かがあり、わたしはそのとき、文章というものの恐るべき力を感じた。
そういえば、息子と同じ課に入った仲間の4人ではないが、同期で、他の課にシステムエンジニアとして入った人が、先日、自殺を連想させる亡くなりかたをしたという。全体講習のときには一緒だったそうで、その頃から欠席が目立ったそうだ。
東大の文学部から大学院のマスターまで出た人だそうだが、文学とエンジニアリングというイメージが結びつかない。エンジニアリングは理系の分野というわけではなくて、むしろ文系の人のほうが多いよ、と息子はいうが、文学のムードとはなじまない気がする。不況の煽りを受けて、自分に合ったところに就職できなかったのかもしれない、とどうしても想像してしまう。在学中から調子が悪かったのかもしれない。
文学部では何を研究していたのだろう。気にかかって仕方がなかった。
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