Notes:不思議な接着剤 #31/カタリ派について#4
Notes:不思議な接着剤は、執筆中の自作の児童文学作品『不思議な接着剤』のための創作ノート。
#31
2009/12/1(Tue) カタリ派について#4/資料#2
佐藤賢一『オクシタニア』(集英社、2003年)。読みかけたが、オック語が関西弁に変換されているというだけで、わたしはパス……。
「棄教したら、土壇場でも命は助けてもらえるんやろ」
「それはそうや」
「だったら、しょぼくれた顔せんとき」
関西弁で読むと、モンセギュールのあの峻厳な岩山がどうしても浮かんで来そうにない。パリのある北よりも当時は洗練された先進地域だったというカタリ派の栄えた南に関西を重ねる試みはわからないではないが、日本の風土が匂いすぎて、わたしは抵抗を覚えてしまう。
ただ、『オクシタニア』には、『モンタイユー』という異端審問の記録をもとに書かれた民俗誌の雰囲気に似たものがあり、人間がどんな思想のもとにどんな人生を送ろうと、生活面の記録だけを拾っていけば如何にも俗っぽい素描が出来上がるのだと思わされる。
しかし、『モンタイユー』の読書もまだこれから――で、たぶん後回しになる。エレーヌ・ペイゲルス『ナグ・ハマディ写本 初期キリスト教の正統と異端 』(荒井献/湯本和子訳、白水社 1996年)が、まさに歴史ミステリーといってよい、ぞくぞくするような面白さに満ちているので。訳者あとがきによると、著者は才気と美貌で知られた人物らしい。同じ著者のものを今回、2冊借りている。
カタリ派はグノーシスの影響を受けているといわれているが、著書の初めのほうから、グノーシスについて書かれた部分を以下に抜粋しておく。
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異端排斥運動は、異端の持つ説得力を不本意ながら認めたことになるが、しかし、司教たちのほうが優勢を占めた。コンスタンチヌス帝改宗の頃、キリスト教が4世紀に公認宗教となった時には、かつて官憲によって苦しめられていたキリスト教司教たちは、今や彼らを支配する立場になった。異端として排斥された本を所持することは、犯罪的行為とされた。これらの本のコピーは焼却され、破壊された。しかし、上エジプトで誰かが、たぶん近くの聖パコミオス修道院の僧侶の一人が、禁書を持ち出して、破壊から救った。――これが壷の中に、ほぼ1600年埋もれていたのである。
しかし、これらのテクストを書き、それを流布した人々は、自らが「異端者」だとは思ってもいなかった。文書の多くはキリスト教の術語を使い、まぎれもなくユダヤ教の伝統に関っていた。その多くは、2世紀に「カトリック教会」と呼ばれるようになったものをつくった「多数者」の目から隠されていた、イエスに関する秘密の伝承を提供しようとしている。このようなキリスト教徒たちは現在グノーシス主義者と呼ばれているが、この呼称はギリシアのgnosis(グノーシス)に由来し、通常knowledge(「認識」)と訳されている。究極の実在は知り得えないと主張する人々のことをagnostic(不可知論者――字義通りには、「知らないこと」)と呼ぶが、他方、そのようなことを知り得ると主張する人々のことをgnostic(グノーシス主義者――字義通りには、「知ること」)と呼ぶ。しかしグノーシスは、元来合理的認識ではない。ギリシア語では、科学的ないしは反省的認識(「彼は数学を知っている)」と、観察や経験を通して知ること(「彼は私のことを知っている」)とが区別されており、後者がグノーシスなのである。グノーシス主義者がこの用語を使う場合、われわれはこれを「洞察[インサイト] 」と訳すこともできるであろう。というのは、グノーシスは自己を認識する直観的過程を意味するからである。また、彼らの主張によれば、自己を認識することは、人間の本性と人間の運命を認識することである。小アジアで(140-160年頃)著作活動をしたグノーシス主義者の教師テオドトスによると、グノーシス主義者とは、次の問題の認識に達した人のことである。
われわれは何者であったのか。また、何になったのか。われわれはどこにいたのか……どこへ行こうとしているのか。われわれは何から解き放たれているのか。誕生とは何か、また再生とは何か。
しかし、自己をもっとも深いレベルで認識することは、同時に神を認識することである。そして、これこそがグノーシスの奥義なのである。グノーシス主義のもう一人の教師モノイモスは、こう述べている。
神とか、創造とか、これに類したことを捜し求めるのはやめなさい。あなたがた自身を出発点にして、彼(究極的存在)を求めなさい。あなたがたのなかにあって、すべてのことを思う通りになし、「わが神よ、わが心よ、わが思いよ、わが魂よ、わが身体よ」と言う者は、誰であるかを知りなさい。悲しみ、喜び、愛、憎しみの源の原因を知りなさい。……あなたがたがこのようなことを注意深く吟味するならば、あなたがた自身のなかに、彼を見出すであろう。
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ここまで読んだ時点では、グノーシスの哲学とは、わたしの知る限りヨガ哲学以外の何ものでもない。
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