ドラマ「JIN ―仁―」最終回を観て
配役の妙もあるのだろうが、登場人物がそれぞれ魅力的だった。また、ストーリーが違うという点で、村上もとかの原作とは一味違う面白味があった。
最終回にしては、あまりに謎が謎のままに放置されていると怪訝に思い、検索してみたら、続きは映画で……ということらしい。あら、そうなの?
時代劇は観ないが、これだけは観た――と書かれた記事をちらほら閲覧したが、わたしも大人になってからは時代劇はほとんど観ない。子供の頃は、親に合わせてよく(仕方なく)観ていた。
で、思うのだが、「JIN―仁―」は時代劇ではない。まぎれもない現代劇だと思う。
時代劇には、どこかしら上から目線というか、形式重視というか、あの時代はこんなものだろう、という想定の下に、ストーリーも人間も型にはめたつくりかたが一般的で、自ずから俳優さんたちも型にはまらずを得ない。
しかし、「JIN―仁―」の場合は、江戸時代という過ぎ去った時間に生きた人々を上から目線では見ていない。復古趣味ともまた違う、馥郁とした、初々しい描きかただった。
あの時代はこんなものだろう、という想像力が働かないほど、江戸時代は遠くなったのかもしれない。そして、そのために、あの時代がかえってエキゾチックな輝きを放つようになったのかもしれない。主人公がタイムトラベラーであるという神秘が、よいスパイスともなっていた。
その風通しのよい自由な、物柔らかな雰囲気の中で、俳優さんたちは各人の魅力を気ままに遊ばせていた(ように見えた)。
ドクター仁は、野風=未来[みき](咲の言葉を引用すれば、どちらも形を変えた水。つまり姿を変えた同じ人物)と咲のどちらを選択するのだろう、というのがわたしの第一の興味だった。
野風=未来は仁にとって、魅力的にすぎる。妖艶かと思うと堅気風、また粋であり、才華をほしいままにしているかと思うと、それら全てを手放しても構わない風の無欲な、無垢な素顔を覗かせたりもする。
野風=未来はユング風にいうと、グレートマザー的な色彩の強い女性だ。偉大すぎて、魅惑的すぎて、仁は彼女に取り込まれ、彼女のうちに溶解しそうになってしまう。
仁は、常に野風=未来を通して最大級の試練を与えられる。一人で試練に立ち向かえない彼には、仲間が現れる。
タイムトラベルする前の現代では、そんな仲間は存在しなかった。だから、仁は試練に打ち勝てず、自己喪失した彼はカオスに墜落してしまったのだ(自殺の変形ともいえる)。
墜落(タイムトラベル)した仁を、またしても江戸時代の花魁・野風に身をやつした未来(グレートマザー)が彼を招き寄せようと待ち構えている。
が、自分探しの旅に出た仁は江戸時代という異界で仲間に出逢う。その中でもリーダー格は咲だ。
まるで咲は仁の欠けた半身のようで、窮地に現れては首尾よく彼を救う。仁に欠けがちな決断力とインスピレーションを備えた最高のパートナーだ。追い詰められた仁の状況をしばしば逆転させる辺りは、トリックスター的役割も持つ(咲の動機は常に潔癖そのものだが)。
ドラマでは、仁は咲を選択するという無難な判断を示して、グレートマザーである野風は撤退した(あまりにも美しく去った)。
が、それは、そこが異界であったからこそ可能だった。彼の成功はあくまで幻なのだ。もう一度、元いた世界にタイムトラベル(輪廻転生)し、咲なしでグレートマザーである未来と対決しなければならないのではないだろうか。仁にとって、本来いるべき時は、あくまで現代なのだから。
打ち勝ったときに真の恋人が仁の前には現れるはずだ。それは、未来なのかもしれないし、違うかもしれないが、その恋人は、対等に接することのできる相手として出現するだろう。そうなって初めて、仁には可能になると思う。愛の行為が。
何だか、ドラマから完全に離れて勝手な放言をしてしまった。別の物語を作っちゃった。
映画に注文するとすれば、せっかく勝海舟だの坂本龍馬だのを出したのだから、ダイナミックな歴史の捩じれなども期待したいところ。
龍馬は憎めない男に描かれているが、あれではだだの遊び人だ。それに、ペニシリンの発見者だというアレクサンダー・フレミングさん(わざわざググった)は、どうなるのさ? 胎児型腫瘍は神? 全てが胎児の夢だったりして……。ああまた、お話作っちゃう。もう、よそう!
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