父親と息子
夜中に目が覚めて書いています。ホテル1階のロビーラウンジにある個室で持った昨日の会合が成功したかどうかはわかりませんが、最善を尽くしたといったところでしょうか。
息子と娘の助けがあって、できたことでした。息子には特に感謝しています。わが息子ながら、物事の全体を捉え、整理し、秩序づける能力には、舌を巻きます。
その過程では、真剣になるあまり、怖かったりしますけれど。わたしは夫に対する監督不行き届きのかどで、よく叱られます。
夫も子供ではありませんから、四六時中目を光らせているわけにもいかず、そのあたりのバランスのとりかたが難しいところです。結婚生活が恐怖政治になってしまっては、何のための結婚だかわかりませんから。程よい自由と楽しさが感じられるようでなければ、結婚した意味がないでしょう。
今回のことでは、夫も深く感謝しているようです。これに懲りて、考えのあまい行動は慎んでほしいものですが、過去のあれこれを振り返ると、これからも彼と暮らす限りは、気を抜くわけにはいかないでしょうね。そのことに、今回はほとほと疲れてしまったわたしです。
今回の事件は、2年前に解決したはずの過去の夫の軽率な行動が引き寄せたことで、それに対する彼の対処のまずさが問題を再燃させたのでした。
今回の事件については、必要とあらば、法的手続きにスムーズに入れるような手筈を整えました。そうせずに済めばと願いますが、いずれにしても、成り行きを見守る必要があります。何だか、5年前の台風(このときのことを題材にした小説はこちら)のときから、父の問題、今回のことと、こんなことばっかり。
まだ夫を許すわけにはいかないらしい息子は、今、写真の全日空ホテルに泊まっています。
昼間、今回のことで夫に会うと息子がいったときは、どうなることかと思いました。ところが、息子は手厳しさの中にもほのかな優しさと時折子供に帰ったようなあどけなさを感じさせる姿勢で、夫も慎みと繊細さを感じさせる姿勢で、向き合っていました。あの情景は、父親と息子にしか醸せないものでしょう。
夫に息子が絶縁状を叩きつける前の父子関係について、わたしは夫が陰で息子を虐めているのではないかとさえ、疑ったことがありました。最近息子に確かめたところでは、それはわたしの卑しい疑いにすぎなかったようで、そのことを恥ずかしく思いました。
「俺が子供の頃の親父は、子供には無関心という感じだったけれど、高校くらいになってからはむしろ、俺には常に規範となろうとしていたというか、よいところを見せたがっていたと思うな」と息子。確かに夫は、高校生の息子に職場のことを話すのが好きで、教訓めいた口振りを好んだりもしました。
「でも、じゃあなぜ、パパと過ごすとき、時々ひどく傷ついた顔をしていたの?」というと、
「えっ? それはたぶん、よいところを見せたがっていた親父の無理と……それに、ほら親父って子供との接しかたが不器用なほうじゃない。そのことが互いに息苦しかったんだと思う」と息子。
「あら、そうなの? 紛らわしい子やね」と、呆れたわたし。夫と過ごす息子が押しつぶされたような変な顔をするものだから、彼の実家での嫁いびりを思い出して、彼らと夫が同類だとわたしは思い込んでいたのでした。
そのことについて、息子は「親父の実家の連中は明らかに虐めが好きというタイプだけれど、親父は自分から直接手を下すタイプじゃないよ。見ている側というか……親父にも、陰湿な面はあるかもしれないけれど」といいました。
わたしにはどちらも同じと思われ、ふとした拍子に陰湿な夫が全面に出るとき、わたしは戦慄を覚え、心底彼から離れたくなるのでした。でも、いつだったか夫に、陰で息子に底意地の悪い態度をとることがあるのではないか、と問い詰めたとき黙ったあれは「違う」という意味だったのですね。
どうして、きちんと説明してくれないのかしら。わたしの質問に虚を衝かれ、うまく返事ができなかったのかもしれません。
そして、父親と息子という肉親関係には、わたしには理解しにくいナイーヴといいますか、複雑なところがあるようです。ナンにしても、彼らの複雑な思惑から、よく八つ当たりをされるわたしは、時々自分を彼らに都合のよいように使われる弁慶のように感じてしまうことがあります……。
息子が夫に絶縁状を叩きつけたのは、大学院に進学する頃でしたから、2年8ヶ月ぶりの帰省でした。その間は、仕方がないので、わたしと娘のほうで息子に会いに行きました。学費、アパート代、生活費、就活費の一切を奨学金とバイト代で遣り繰りしての苦学的なマスター時代でした。
その頃が大変だったからか、仕事は遊びみたいに楽と息子はいい、痩せていたあの頃に比べたら、入社して5ヶ月足らずで少しふっくらしていました。その楽なことを続ければいいのに、来春からは会社の仕事と並行してドクターコースへ進む計画の息子。
そして、何年先のことなのかはわかりませんが、ゆくゆくはアカデミックな世界に戻りたいと考えているようです。楽な道からまた茨(研究)の道へ戻りたいと思っている息子の気持ちは、51歳になっても作家の卵を続けているわたしにはわからないではありませんが、だからこそ複雑な気持ちにもなります。
息子は、2時間足らずを家で過ごしただけでした。懐かしそうにキョロキョロして「ぬいぐるみが増えたねえ」といって、スティッチの背中をポンポンと軽く叩き、またキョロキョロして「本が増えたねえ」といいました。
そして出かける前のひとときを、子供の頃の情景そのままに、娘と息子(姉弟)が恐竜の本――『BBC BOOKS よみがえる恐竜・古生物【超ビジュアルCG版】』(ソフトバンククリエイティブ、2006年)に頭を並べて見入っている様は、母親のわたしにはかけがえのない一幅の絵のように感じられたのでした。
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