米軍によるアフガン南部で掃討作戦のニュースと、火曜日に観た映画『子供の情景』
昨日のニュースで、 米軍がタリバンの拠点地域――南部ヘルマンド州――で大規模掃討作戦を開始したと伝えていた。
火曜日に観た映画『子供の情景』は、アフガニスタン中部のバーミヤン――タリバンによる大仏破壊が行われた周辺――を舞台としたものだった。
名作かどうかの判断ができないままラストシーンとなり、制作者の意図にはめられた……と思った瞬間、それにも拘わらず涙が拭きこぼれ、慌ててハンカチで口を押さえたけれど、嗚咽する声が漏れてしまった。
場内が明るくなったら、呆れ顔の娘が苦笑してわたしを見ていた。「ママったら、そんなに泣いちゃって。あんな現実があそこにあることくらいは知っていたでしょう?」
知っていたし、子供がとる自然な行動にことさら意味づけをして、流血シーンなしで戦禍を浮かび上がらせようとする手法は、作為的、ルール違反と思わせたくらいだった。
しかしながら、あの女の子バクタイのひたむきな目……悪餓鬼どものタリバンごっこのなかでとはいえ、「バクタイ、死ぬんだよ。死ねばあとは放っていてもらえる」という隣の家の男の子のアドバイスにも耳を貸さなかった頑固なバクタイが、ついに彼らから逃れるために、「バクタイ、自由になりたいなら、死ね!」という男の子の叫びに自ら死んでいく(死ぬ真似をする)シーン……そこに冒頭の大仏破壊の爆破シーンが重ねられた結末に、わたしの中の澄まし込んだ分別も一緒に吹っ飛んだのだった。
尤も、大事な人々と死に別れる中でそうなったのか、子育ての中でそうなったのかはわからないが、めっきり涙もろくなった。子供を見れば、どの子も自分の子に見えてしまう始末。
映画に出た子供たちは、全員現地の子供たちだということだ。ひと口にアフガニスタン人といっても多民族国家を感じさせる容貌の多様さで、バクタイという女の子は蒙古系の顔立ちだった。意志のしっかりしていそうな、対象物をまっすぐに見つめる可愛らしい子。
強国の利害に翻弄されてきたアフガニスタンだが、自覚しようとしまいと、あの子供たちの現実に、わたしたち日本人の利害の絡んだ思惑が複雑に関わっていることはいうまでもない。
パンフレットを読むまでわたしは、タリバンの有名な女性に対する権利の制限が、女性は守られるべきものという信念から派生したものだとは知らなかった。これは「イスラムよりもむしろアフガニスタンの伝統的な家父長制から生まれたものと言われている」とか。
とはいえ、就学・就労の禁止、親族の男性と一緒でなければ外出禁止などといった権利の制限は女性の人間性を剥奪するに等しい。
パンフレットの鈴木均氏によると、タリバンは「元々はアフガニスタン南部のデーオバンド系の宗教学校に集められていた戦争孤児が中核となり、荒廃したアフガニスタンの世直しを目指した平和的な運動であった。これに1996年頃からサウジアラビア出身のオサーマ・ビンラーディンらの国際テロ組織が合流したことによって、思想的に一挙に急進化していった」そうだ。
『子供の情景』の監督ハナ・マフマルバフは、イランの映画一家に育った女性で、映画制作当時は19歳だったという。写真を見ると、落ち着いた感じの理知的な美人だ。
大人にとっては短い一日が子供の時間では長い長い一日であることを、若い監督ならではの感性で感じとっていたのだろう。バクタイという6歳の女の子の視点で、長い長い昼間が描き尽くされる。
バクタイはひたむきに学校へ行こうとする。就学年齢に達しているのに行けないということもあったのだろうが、隣の家に住むアッバス――石窟が彼らの住居――がバクタイを羨ましがらせたことが一番の原因だろう。子供がとりそうな行動が自然に描かれていた。
その学校へ行きたくてたまらないバクタイを、まず学用品不足が阻む。彼女は、家にあった卵をパンに換え、何とかノートを手に入れる。お母さんの――アフガニスタンの女性にとって大切なものだという――口紅が鉛筆の代わりだ。
次にバクタイを男女別扱いの規則が阻む。教わった女子校は遠かった。女子校を目指すバクタイを、今度はタリバンごっこに熱中する少年たちが阻む。少年たちは、この年齢の少年たちがそうであるように敏捷で、時に大人以上に執拗で、タリバンになりきっている彼らの目つきは真に怖ろしいものだった。
タリバンごっこという戦争ごっこの一種は、現地の子供たちの遊びがとり入れられたものだという。
少年たちによれば、口紅は無神論者の物だそうで、バクタイは石投げの刑を宣告される。ノートは破られて、少年たちは紙飛行機を折るのに夢中になる。こんなところは如何にも子供だ。彼らによると、大仏も紙飛行機爆弾で処刑されたらしい。
そして、バクタイは捕虜にまでなるが、何とか少年たちを交わし、女子校へと急ぐ。
老人に道を尋ねると、老人はバクタイのノートを破って、紙の舟を折り、川に浮かべる。紙の舟に導かれるようにして辿り着いた女子校で、バクタイは自分より大きな子供たちのクラスへ入り込み、彼女らに阻まれることになる。
バクタイは何といっても6歳の子供で、学校の規則が身についていない。教室の中で彼女は、半べそをかきながらも、何とか大きい子供たちの間に身をねじり込ませたのはいいが、リンドグレーンの『長くつ下のピッピ』を連想させるような、したい放題をする。
口紅で、お化粧遊び。唇も頬も真っ赤に塗りたくり、どの子も見違えるほど綺麗になった。黒板に向かっていたため、背後で起きていることに気づかなかった女教師に、ついに出て行くようにいわれてしまう。帰宅する途中、またもやタリバンごっこの少年たちに捕まるわけであるが、女子校へ行って戻るバクタイの背後には、あのバーミヤン遺跡が存在していた。
らくだ色をした遺跡。バクタイの緑色の衣装と手にした黄色いノートは、遺跡の色に映える。
わたしは、昨年5月に出かけた『ガンダーラ美術とバーミヤン遺跡展』を思い出した。悔しいことに、そのときわたしは体調が悪くて、思うように展示物を見られなかったが、記憶には残っている。バーミヤン遺跡展では、破壊される前の写真や図面などを鑑賞できた。
壁画に描かれた飛天は、何ともエキゾチックなものだった。濃い、生き生きとした表情。それは、ギリシア、ローマの影響を強く感じさせるガンダーラ美術とは、全く印象の異なるもので、ササン朝ペルシア及びインドのグプタ系美術の影響が強いものだというが、なるほどと思った。
そういえば、ハナ・マフマルバフ監督は、バクタイの隣の家の男の子アッバスにアフガニスタンの国民とブッダをイメージさせようとしたとパンフレットにあった。
最後にいじめっ子たちに囲まれて倒れるのも仏像が倒れる、というイメージで撮りました。あの役をやった男の子は、本当に物覚えが悪かったんですよ! 何度教えても間違ってばかりで、何度も何度もやりなおすんですが、泣き出すわけでもないし、ふてくされるわけでもないし。全然表情は変わらなくって、そんなところも「仏像みたい!」って、すごくおかしかったです。
うーん。アッパスが小細工されていることはわかり、時々浮く気がしていたが、そんな意味づけがなされていたとは……。よくも悪くも、監督の若さを感じさせる映画ではあった。

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