シネマ『天使と悪魔』を観て:追記
実は、『シークレット・ドクトリン』の宇宙発生論で扱われた概念は、わたしたち日本人には比較的肌に馴染みやすいものです。
というのも、この論文は『ジヤーンの書Book of Dzyan』と呼ばれるキウ・ティ=シリーズ〔※『チベット大蔵経』のカンギュル(仏の教説の部門)の中のタントラの部分――H・P『・ブラヴァツキー著『実践的オカルティズム』(田中恵美子&ジェフ・クラーク訳、神智学協会ニッポン・ロッジ、平成7年)用語解説より〕の最初の巻の一つをもとに書かれているからです。スタンザ形式の詩に注釈をつけるかたちで書かれています。
注釈には古今東西の科学・宗教・哲学・文学といった分野からの引用が絢爛豪華になされていますが、日本の宇宙発生論として記紀からの引用があったり、わたしの大好きなバルザックの文学作品からの引用もあったりして、興味が尽きません。
ただわたしには難しすぎて、普段は『シークレット・ドクトリン』というすばらしい書物の存在すら忘れている始末です。何かの折にふと思い出しては紐解いてみて、その圧倒的なスケールと豊かな内容にひととき浸らせて貰っては、浮世の垢をすすぐといった風です。
で、宇宙の進化COSMIC EVOLUTIONという『ジヤーンの書』から英訳された七つのスタンザがあまりにも美しいので、午前中、恥ずかしながら、ほんの最初の部分だけ、わたしも訳してみました。
1.決して見えないローブにくるまった不滅の親空間は、七つの永遠のあいだ、再びまどろんでいました。
2.時間はありませんでした。継続期間の無限の深みで熟睡していたからです。
3.宇宙魂はありませんでした。それを容れるア・ヒはいなかったからです。
4.至福に至る七つの道はありませんでした。不幸の大いなる原因はありませんでした。それらを生み出し、それに陥る者は一人もいなかったからです。
5.ただ闇だけが一切合切を満たしていました。父と母と息子が再び一つとなったからで、しかも息子は新しい車輪の車を運転しての巡礼の旅にまだ目覚めていなかったからでした。
せめて9まであるスタンザ1を訳してしまうつもりでしたが、今日のところは5までで時間切れ……。英語力がほぼないも等しい上に、原文が異様に美しい、異様な事態を描いているからということもあるでしょうね。
実は、午後からまた、過去記事で書いた映画の一つに娘と行きます。『ダウト』。メリル・ストリープ主演。
では、わたしのお粗末な訳を忘れていただくために、H・P・ブラヴァツキー著『シークレット・ドクトリン 宇宙発生論(上)』(田中恵美子&ジェフ・クラーク訳、神智学協会ニッポン・ロッジ、平成元年)からスタンザ1の訳を以下にご紹介します。
宇宙の進化
『ジヤーンの書』から翻訳された七つのスタンザ
スタンザ1
(1)永遠の親は常に目に見えぬ彼女の衣に包まれ、七つの永遠の間、再び深い眠りにおちていた。
(2)時間はなかった。継続の無限のふところで、熟睡していたからである。
(3)宇宙マインドはなかった。宇宙マインドを内に含むア・ヒはいなかったからである。
(4)至福に至る七つの道はなかった。不幸の大原因はなかった。それらを生み出し、それに陥る者は一人もいなかったからである。
(5)暗黒だけが無際限の一切を満たしていた。父と母と息子が、再び一体となったからである。息子は新しい車輪とその車で自分の巡礼の旅にまだ目覚めていなかった。
(6)七人の荘厳な主等と七つの真理は存在するのをやめていた。宇宙即ち必然の息子は、有るが無いそれに吐き出されるため、パラニシュパンナの中に浸されていた。何もなかった。
(7)存在の原因は除かれていた。かつて見えたもので、今は見えぬものが、永遠なる非存在、即ち唯一なるそれの中で休息していた。
(8)存在の唯一の形体だけが、果てしなく無限で、原因なく、夢のない眠りの中に広がっていた。そして宇宙空間の中では、ダン・マの開かれた眼によって感じられる偏在するものにくまなく、生命が無意識に脈打っていた。
(9)しかし、宇宙のアラヤがパラマルータの中におり、大車輪がアヌパパーダカであった時、ダン・マはどこにいたのか?
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