雛祭り雑感(杉田久女の句をご紹介)
雛祭りに寄せて、大学の文芸部時代のⅠ先輩が、奥様とそのお母様が手作りなさったというお雛さまの写真を送ってくださいました。
よくできていて、感心しました。草の上に置かれたお雛さま、素敵でした。
Ⅰ先輩は1学年上の先輩なのですが、最近になって偶然、ネット検索時にわたしのブログにご訪問くださり、メールをいただいて以来の交流の再会でした。
たぶん、後輩の乱調気味のブログには驚かれたことと思いますが、何かと気にかけていただいてありがとうございます。さすが幹事をしていただけあって、面倒見がよいですね、先輩! この場から改めて、御礼を申し上げます。
51歳になっていても、先輩からメールをいただきますとね、すっかり大学時代の気分に戻っちゃいますよ。
Ⅰ先輩は、奥様の了解を得て、創作を再開なさったということです。本気ですね! 歴史小説に中心を据えて書き始めた旨伺い、わたしと興味の共通する嬉しさがありました。
刺激しあい、高めあいながら、互いによいものを完成できるのではないかと思います。これからも、よろしくお願いします。
話を雛祭りに戻しますと、手作りのよさを感じさせるⅠ先輩の奥様とそのお母様のお雛さまには、心温まるばかりです。しかしながら、雛祭りというと、わたしは微妙な気持ちになるのが常でした。歳時記などを見ても、何とはなしに寂しさを感じさせる句が案外あるように思います。なかには、
闇のなか髪ふり乱す雛もあれ 〔桂信子〕
という怖い句もあったりして……
御祓いのための流し雛が起源というところから、そんなムードを引き摺っているのでしょうか。あるいは、結婚に関するクラシカルな概念を含んだ伝統というものの重み。そこにひそむ雅やかさと瘴気。世俗の観点から見れば、雛祭りという行事には商売の絡んだ金の力が跳躍する一面もあります。
源氏物語も連想されます。光源氏の手によって、後ろ盾に乏しい貧困気味の境遇から救い出された紫の上でしたが、新しい環境にまだ怯えているなかで、源氏が一緒に雛遊びをしてあげる場面は印象的です。
今年も、わが家はお雛さまを飾らずじまい。仕事で忙しい娘も、忘れ気味。来年は飾ってあげなければ。亡き母が、当時はまだ赤ん坊だった娘に似ているからと選んでくれていた、真多呂のお雛さま。里帰りしていたわたしはそのお雛さまを、母の死期を予感しながら、道々泣き泣き、玩具屋にとりに行きました。
娘時代はそれこそ、自分の命を捧げてもいいと思うほど母が好きだったのに、その母を殺したなんて、実の父から、いくらボケているとはいえ、いわれ、裁判でもあれこれ苛まれ、ああ何という壊滅的な今年の雛祭り。
ただ、わたしは行事に先駆けて、自作の児童文学作品『すみれ色の帽子』に「ひな祭り」という小品を追加していました。自身がつくり出した瞳という名の少女のクールな感性に救われた今年の雛祭りでもありました。
この雛祭りに、大好きな杉田久女の雛の句をご紹介して、この雑感を終わりたいと思います。
大江戸の雛なつかしむ句会かな
雛菓子に足投げ出せる人形たち
手より手にめで見る人形宵節句
ほゝ笑めば簪(かんざし)のびらや雛の客
幕垂れて玉座くらさや雨の雛
函を出て寄り添ふ雛の御契り
古雛や花のみ衣(けし)の青丹美し
雛愛しわが黒髪をきりて植ゑ
古雛や華やかならず﨟たけれ
髪そぎて﨟たく老いし雛かな
古りつつも雛の眉引匂やかに
紙雛のをみな倒れておはしけり
雛市に見とれて母に遅れがち
雛買うて疲れし母娘食堂へ
瓔珞揺れて雛顔暗し蔵座敷
雛の麻色紙張りまぜ広襖――杉田久女――
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