マーガレット・ミッチェルに題のヒントを与えた、ダウスンの詩をご紹介
当ブログで、たまにですが、詩をご紹介してきました。毎日、その過去記事のどれかにアクセスがありまして、詩を愛する人は結構いらっしゃるのだな、と感じられ、嬉しく思っています。
詩には、どんな人生にも、輝きと尊厳を与えてくれる類まれな力があると思われます。自分でつくらなくとも、ときどき気に入った詩を書き写したり、口ずさんだりして、記憶の宝石箱に仕舞っておくとよいですね。
そこで、今日は、もととなっている小説だけでなく、映画を通じてもファンが多いと思われる名作『風と共に去りぬ(GONE WITH THE WIND) 』の著者マーガレット・ミッチェルに、題のヒントを与えたとされる詩――アーネスト・ダウスンのNON SUM QUALIS ERAM BONAE SUB REGNO CYNARAEを南條竹則氏による口語訳でご紹介したいと思います。
原文の第三のスタンザに、確かに、gone with the wind (風と共に去りぬ。南条氏が、風とさすらい、と訳されている箇所)とありました。
我は良きシナラの支配を受けし頃の我にはあらず
きのう、ああ昨夜、女と私の唇の間に
ふと君の影がさした、シナラよ! 君の吐息が
接吻と唇の合間に、わが魂を覆った。
そして私は寂しさに沈み、昔の恋に胸ふたがれた。
そうだ、私は寂しさに沈み、頭(こうべ)を垂れるのだった。
私は君を裏切らなかった。シナラよ、私なりに。夜通し、女の温かい胸は、私の胸に圧(お)しあてられて鼓動を打った。
女は朝まで、この腕の中で、愛と眠りにくるまれていた。
金で買った紅(あか)い唇の接吻はたしかに甘かった。
けれど私は寂しさに沈み、昔の恋に胸ふたがれた。
夜明けに目覚めて、灰色の空を見たときは。
私は君を裏切らなかった、シナラよ、私なりに。私は多くを忘れ果てた、シナラよ! 風とさすらい、
遊び仲間と狂おしく薔薇(ばら)を、薔薇を投げ、踊っては、
還(かえ)らぬ君の青ざめた百合(ゆり)を心から追いやった。
けれど、私は寂しさに沈み、昔の恋に胸ふたがれた。
そうだ、踊りは長かったから、その間ずっとやるせなく。
私は君を裏切らなかった、シナラよ、私なりに。もっと激しい音楽を、強い酒をと私は叫んだ。
だが宴(うたげ)が終わりを告げ、燈火(ともしび)が消え去れば、
その時こそ君の影はさしおりる、シナラよ、夜は君のもの。
そして私は寂しさに沈み、昔の恋に胸ふたがれる。
そうだ、わが思う人の唇に飢えて。
私は君を裏切らなかった、シナラよ、私なりに。南條竹則・編訳『アーネスト・ダウスン作品集』〔岩波文庫、2007年〕
当ブログにおける関連記事:昨日の夕飯はカフェで&コットンと『風と共に去りぬ』
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