源氏物語現代語訳3種 その一
ちくま文庫から、大塚ひかり全訳(ひかりナビ付)『源氏物語』一・二巻が出ているのを書店で見かけ、思わず買ってしまった。『源氏物語』好きのわたしとしては、新しい現代語訳が出たとなると、手にとってみたくなる。それでも、購入するまでいったのは、本当に心惹かれた与謝野晶子訳、円地文子訳の2種だけだった。
大塚訳は、一語一語原文に忠実な逐語訳だという。それでは当然ながらわかりにくいので、〈ひかりナビ〉なる注釈が必要となったのだろう。与謝野晶子訳も円地文子訳も意訳であって、大塚訳がいうところの〈ナビ〉も本文中に溶かし込んだスタイルである。
大塚訳では、各巻に豊富な付録もついている。第一巻の付録の内容は《内裏図》《装束》《宗教背景》で親切な配慮だが、特異なのは、第三巻の付録の《光源氏のセックス年表》、第五巻の《光源氏のセックスレス年表》である。
第二巻の帯に「『源氏』を読むカギは「性愛」にある。〔略〕」とあるから、それで、こうした付録がつくことになったのだろう。わたしは、帯の主張に異議がある。
それが大塚訳を購入した主な動機だったが、そればかりではない。書店で読んだ冒頭の部分が、何だかグリム童話みたいで、自分の顔が上気するのを感じた。「何だろう、これは」と思った。「面白いかもしれない。買ってみよう」となった次第。
訳者の生年を確かめてみると、1961年とあった。わたしが1958年だから近いが、この数年の開きには案外大きなものがある。大学入試センター試験の前身である共通一次試験の始まったのが、1979年。訳者は当時新人類と呼ばれた、この共通一次試験世代に属するのではないかと思う。
妹が共通一次世代で、わたしたち旧人類と呼ばれた世代と比較すれば、個人主義的にスタイリッシュに映ったものだ。尤も、今の若い人々から見れば、同じようなおじさん、おばさんかもしれないが……。
大塚訳を読み出すと、与謝野訳、円地訳と比べたくなり、揚句に岩波文庫版、山岸徳平校注『源氏物語』を開いて原文を確かめたりして、沢山の花びらに埋もれるような、めくるめく時間を過ごしてしまった。
ところで、引越しを重ねるうちになくしたのに違いないが、岩波文庫版の第一巻だけがなかった。台風被害に遭ったときに、かなりの書物をだめにしてしまったから、その中にそれが含まれていたのかもしれない。書店勤めの娘が買ってきてくれたそれは、ワイド版。老眼を強く自覚し出したわたしには、丁度よかった。
偉大な『源氏物語』。大好きな『源氏物語』。これを機会に、新カテゴリー「Notes:源氏物語」を作った。自由気ままに、『源氏物語』について、書きたいときにメモしていこうと思う。
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