興奮を誘う一冊:佐野眞一著『甘粕正彦 乱心の曠野』
ジュンク堂書店で、ノンフィクション作家・佐野眞一の著書、『甘粕正彦 乱心の曠野』(新潮社)を見つけ、衝動買いしてしまった。
甘粕正彦といえば、村上もとかのコミックス『龍』(小学館)でひときわ異彩を放っていた人物ではないか。
恥ずかしながら、わたしは甘粕に関してはコミックス仕込みの知識しかなかったのだが、そのうち日本が満州と関わりの深かった時代について知りたいとは思っていた。
母方の伯父の一人が満鉄に勤務していたし、伯母の一人も満州にいたことがあった。日本人にとって満州のよき時代だった頃のゆたかな生活、引き揚げの悲惨さ(伯父の妻は引き揚げの途中で亡くなり、伯父も引き揚げ時の無理が祟って亡くなった。何とか連れ帰った幼かった二人の子供たちは、下手をすれば残留孤児になるところだったろう)について、親類の集まりで話を断片的に耳にした……。
膝関節の怪我が発端となって憲兵にならざるをえなかった甘粕。大杉事件で軍法会議にかけられ、刑務所に収監。その後、フランスに渡り、満州に現れて宣撫工作や国際謀略工作に深く関わる。やがて満州映画協会の理事長となり、青酸カリを仰いで自決した最後――。
序章の中にある次のような文章を読むと、甘粕に対して一層興味が掻き立てられる。
「近代の軍人の中で、甘粕ほど多彩な人間と接した人物はいない。石原莞爾、板垣征四郎、東条英機といった大物軍人をはじめ、大川周明、岸伸介、ラストエンペラーといわれた皇帝溥儀とも因縁浅からぬ関係をもった甘粕は、ヒトラー、ムッソリーニ、フランコという国際的ファシスト三人に面会し、満英時代は李香蘭(山口淑子)や、内田吐夢を筆頭とする多くの映画人たちと接触する機会も持った。」
「関東大震災から始まり、満州事変の謀略工作を経て、敗戦後の満州混乱のなかの自決にいたる甘粕の二十年あまりの足跡には、正史には書かれることのない負の近現代史、闇に溶暗した昭和の裏面史が凝縮されている。」
東映は、甘粕が理事長だった満英の残党たちによって戦後つくられた映画会社だそうだ。
ちなみに以前読んだ、佐野眞一著『カリスマ 中内功とダイエーの「戦後」』(日経BP社)も、息もつかせぬ面白さだった。
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