秋葉原事件を考える
容疑者は娘と同世代だ。
ゲームと切り離せない最初の世代、といってもいいのではないだろうか。教師と生徒が友達関係のようであったことも特徴的だと思う。
容疑者は親が厳しかったといっているようだが、想像するに、おそらくそれは口うるさい親といったもので、昔気質の権威的な親、後姿を見せる渋い親といった風な、いわゆる親の威厳は薄れていたのではあるまいか。
短大卒ということだから、娘と同じ年の就活ではないだろうが、求人が冷え込んだ年に就活だったろうことは間違いない。
秋葉原事件は、まぎれもない社会問題だ。
派遣という労働の形式は、どうしたって浮き草的生活を余儀なくされると思う。
娘の場合は契約社員であるが、正社員と同じにたっぷり働かされている。そして4年目とあって、職場では上司からも頼りにされる立場でありながら待遇は悪いままであり、当然ながら賃金も低くて、経済的に自立するのは難しい。
親と同居しているからやっていけているが、そうでない場合はかなり貧乏な暮らしとなるだろう。娘の友人たちも契約社員か派遣社員がほとんどで、親と同居していたり、困ったときは金銭的に援助を受けていたりと親のサポートでやっていけている人がほとんどだ。
親に頼ることをしなかった容疑者の暮らしは、厳しいものだったに違いない。
中曽根政権から始まり、小泉政権以来、加速度的にネオリベラリズム――新自由主義――が社会に浸透していったなかで、働く人々の待遇は悪くなるばかりだ。
そもそも、ネオリベラリズムの特徴は小さな政府、市場原理主義だから、そのプログラム通りにわが国はセーフティー機能の弱い、大企業任せの社会になったといってよい。
いや、日本という国家自体がベンチャー企業と化してしまっているかのようですらある。行き当たりばったりの思いつくがままの政策が目につく。全国の大学が大騒ぎしてつくらざるをえなかった法科大学院。「ポスドク一万人計画」の失敗は、その思いつきによる一例にすぎない。
政府の思いつきに血税がつぎ込まれ、ちょっと失敗したら、子供が玩具を放り出すが如し……。注意深く、長期的に取り組めばうまく行くかもしれない事業まで、放置される。そして、また思いつく。それに血税が再び。えんえんと続くかに思えるこの繰り返しは、本当に恐怖感をそそる。
多くの博士たちですら、短期契約の立場に追いやられ、生活を守るために、まともな意見も吐けない事態だ。こうしてわが国の脳味噌は、腐れていっている。
勝ち組、負け組み――などという抽象論がでっちあげられているが、病気でもしたら勝ち組であろう直ちに負け組みに転落しかねない馬鹿馬鹿しさ。
明日をも知れぬ生活と物の溢れる街角。貧困であっても、貧困を表に出せない奇妙な社会だ。市場の原理が絶対的価値を持つこの社会では、物が主役だからだろうか。
物は溢れ、安く買えるものもいろいろとあるのだが、それにも拘らず、多くの人々にべたべたと纏わりつく貧困の気配、将来的展望のなさ。
無差別殺人とは現社会を否定することであり、それは現世を否定することでもある。
しかし、いくら現世を否定して、自殺したり、他殺したり、死刑になったりしたところで、それで御破算になるものは何もないと神秘主義者のわたしは感じる。
彼はこの世を去るとき、重い荷物――カルマ――を持ち帰ることだろう。
伝統宗教も、社会主義思想も色褪せてしまった。昔であれば成り立った乞食という職業も、今日のわが国では成り立つまい。海外の困っている人々に寄付する日本人は沢山いても、困っている同国人に手を差し伸べる人はいない。
日本人が冷たい偽善者になったというより、困っている人を真に救済するには、組織の媒介が必要だからだ。
組織を動かすには指導理念が必要で、その指導理念を生むのは思想だが、いうまでもなく今日の日本の思想はネオリベラリズムであって、そのネオリベラリズムは国民ひとりひとりの救済はあまり必要でないとする考えなのだから、やる気なく機能している、ひどく縮んだセーフティーネットから落ちこぼれた人々には、救済はどこからも来ない。
というより、国家こそ、落ちこぼれを日々つくり出していっている張本人なのだ。
貧乏に慣れていない、貧乏ということの意味もわからない、赤ん坊のような若者が現代日本社会という無情な砂漠に放り出された。が、若者には若さも筋力もあり、ダガーナイフで大衆を巻き添えにした自爆テロを企てた(死刑を希望していたというのだから、自爆テロの一形式だろう)。
もっと大きな視野で考えれば、いわゆるアメリカ帝国主義と無関係な事件とはいえない。秋葉原事件は、その末期症状が惹き起こした事件といっていい。
いずれにせよ、この事件は複雑な社会的要素を孕んでいる。古代ローマ帝国の末期を調べ、比較してみる必要があると思っている。
関連エッセー:映画『ヒトラー最期の12日間』を観て
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