Diary 08.6.22|創作について
2日置いて、今朝も発作が起きた。ニトロ舌下錠で鎮めたが、圧迫感が残り、10時半くらいにもう1錠。これで舌下錠はあと3錠になった。明日には薬を貰いに行かなくては……。脈は今日は落ち着いている。喘息もなし。
昨日からずっと、創作のことを考えていた。
実は、今から書こうと思っている短編は、これまでに書きかけて何度も挫折してきた題材で、母の命日が過ぎたら、書き出そうと決めていた。
重い社会的テーマを含み、夫婦を問いかける骨太のテーマだ。
片鱗を見せているものに、『銀の潮』がある。この作品は書き直しすぎて、最終的に何枚になったのだか、はっきりしないほど……。短いものでは100枚になっている。長いものでは200枚くらいだから、ほぼ倍だ。どれも、不完全なものだ。が『銀の潮』には、現在連載している『あけぼの――邪馬台国物語』同様、稚拙であっても、捨てきれないよさがあると思う。
実際これは昔、周りの人々に読んで貰った限りでは、とても評判がよく、特に3人の主人公のうち1人、朝霞津世という名の登場人物に人気が集まり、モデルが誰かについての問い合わせが結構あった。
朝霞津世は日本舞踊の女師匠で、凛とした美人だから、関心をそそったようだけれど、実はモデルは、わたしの作品にしては珍しいことだが、いない。彼女はわたしにとってのマドンナ、空想の世界にしか存在しない憧れの女性なのだ。
そうした意味合いでは、これまでにわたしが書いたなかでは最も趣味的な作品だといえるかもしれない。
ただ、これには重い社会的テーマをいくつか散らした。本当に散らした、という言葉が正しい。それらのテーマに取り組むには、まだ当時のわたしには無理だったから。
豊かさと貧しさ(格差)の問題。セクシュアルハラスメント(性)の問題。夫婦、親子といった社会的囲い込みから生じる問題。医療の問題。
主人公津世は、設定した時代の医療技術ではまあ天寿を全うしたといえるだろうが、テーマに対するわたしの取り組みの稚拙さを象徴するかのように、2人目の男性の主人公上村才(後に津世の養子になり、朝霞才になる)は役不足で終わり、3人目の主人公朝霞百合(この少女も津世の養子)は早死にした。百合は、今書けば、死なせずに済んだだろうと思う。
あの当時はセクシュアルハラスメントの問題であがいていて、あがくばかりで冷静に取り組むだけの資料と経験に欠けていた。テーマを料理できず、材料を捨てるように主人公の少女を捨ててしまったというわけだ。
今ではこのセクシュアルハラスメントを含む性のテーマでは、わたしなりの取り組みかたが確立している。
『侵入者』を同人雑誌評(文藝春秋から出ている「文学界7月号」)で「短編としてみごとな首尾をつけている」と褒めていただけたのは、この確立した技法の賜物なのだ。この技法を使って、夫婦間の性の問題にアプローチしたものであって、受けを狙っただけの単純な技術によるものではない。
現在、忍者ブログ「マダムNの純文学作品」で連載中の『救われなかった男の物語』では、成長して医師になった朝霞才が少しだけ登場する。
『救われなかった男の物語』は『銀の潮』の偽悪的なヴァージョンといってよいもので、この作品には朝霞百合の偽悪的ヴァージョンである、倫子という物凄い女性が登場する。
わたしは彼女が気に入っている。冷たく、したたかで、万事につけ、計算高い女性であるが、生き抜くために、手にしたひれ(領巾)を剣に取り換えた女性の姿なのだ。
可笑しなことに、このアマゾネスを矮小化したような女性倫子の生んだ男の子というのが、ふにゃふにゃした、多感な子供で、名前を己(おのれ)という。
太った子供でアルファベットのOオーを連想させることから、名前と引っかけてオーちゃんと呼ばれている。このオーちゃんこそ、いわば男女間の架け橋的存在、両性具有的感性の持ち主で、モデルはいうまでもなくフランスの文豪オノレ・ド・バルザック。
尤も、『救われなかった物語』では物語をうまく膨らませることができず、ハムスターとオーちゃんの関わりを書き込みすぎて作品を壊してしまい、「織田作之助賞」の最終選考では、落ちてしまった。
ただ、わたしはオーちゃんとハムスターとの関わりを暇つぶしに書いたわけではなく、架け橋的存在を際立たせるために、その架け橋の特徴である老子的たおやかな感性を描きたかったのだ。
わたしはオーちゃんの成長した姿も書きたい。大学生の彼の話は書きかけたものがある。さらに、彼をわたしは作家にしたいのだ。
最終的にはこれら関連のある話を長編の形にまとめたい(←遠すぎる目標)。
作品の意図を選考委員のお1人、故三枝和子先生が見事に読み取ってくださった。欠陥を承知の上で買ってくださった。
そして先生はわたしには長編が向いているとおっしゃったが、歴史小説を書きたいと思っているというわたしの言葉に対し、長文のお手紙で、歴史小説を書く上での貴重な助言をくださった。
まだそれらを生かすだけの準備がわたしにはないけれど、いつか必ず邪馬台国を舞台にした神秘主義的小説と、伊万里焼をテーマとした歴史小説を書きたいと思っている。
プランを練り始めた今度の短編では、短編でありながら背後に広大な世界を感じさせるだけの象徴的な断片にしたい。
これも同じテーマの周りをぐるぐると回る衛星の1つとなるだろうが、小さな星であっても輝きの大きな、これまでの作品から1歩進んだものにしたい(←願望及び決意)。
児童文学作品『不思議な接着剤』が進まないのは、秋吉台の鍾乳洞に行かなければ、気分が出ないからだ。
どうしても行きたい。
娘が、夏休みに1週間連休がとれるといっていた。友人や職場仲間とは休みが合わないので、ひとり旅行が嫌いな娘はわたしを当てにしている。わたしは、いつ倒れるかもしれないひとり旅が不安で、やはり娘を当てにせざるをえない(←利害の一致)。
秋吉台の件を持ちかけてみよう。
伊万里焼の取材につき合わせた昨年の夏は、娘も鍋島藩秘窯の里のやきものに感激していた。嬉野温泉も気に入ったようで、以来、よく職場仲間と温泉に日帰り入浴を利用しに出かけているほどだ。
秋吉台に出かけたら、泊まるのは萩がいいなあ。萩は、『不思議な接着剤』に登場する錬金術師の娘スピカのモデルに決定した、統合失調症の友人(文芸部の先輩)の出身地でもある。
いつだったか友人から電話があったときに、作品のことを話し、スピカのモデルにすると話したら、喜んでくれた。完成したら作品を送ることになるが、彼女も作品を見抜く人だ。わたしの作品を理解してくれた人はこれまでに、三枝先生と彼女の2人だけだ。いや、2人もいる、ということは、大きな励みになる。
お2人の背後には、同レベルの知性と感性を備えた沢山の人々が存在するというわけなのだから!
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