友人からのプレゼント
連休後半の5、6日、博多に出かけた第一の目的は、大学時代からの女友達(文芸部の先輩)に十数年ぶりに会うことでした。
その間、電話と手紙で交友関係を維持してきましたが、わたしたちの友情には常に、統合失調症という難しい彼女の病気が介在してきました。
『ツンドラ』というロシア料理店で、ランチをしながら彼女と2時間ほど話しました。娘がついてきていました。
娘は彼女の詩のファンですし、彼女からの電話をとることもよくあるので、わたしは彼女と娘を引き合わせたかったのでした。
十数年ぶりに見た彼女の外観は、長年の病気と薬の副作用からか、容貌にも、体型にも、ひじょうに美しかった以前の面影がほとんどありませんでした。また片脚を少しだけ、引き摺っていました。それについては、薬の副作用だと彼女はいいました。彼女には糖尿病もあります。
外観の変化ということにつては、高齢のお母様の調子がよくないと聞いていたので、お母様の管理が行き届かなくなったということも考えられました。
そうした心配は深まりましたが、彼女の話から、ご兄妹との関係は遠慮のない、仲睦まじさを感じさせるものでした。2人のボーイフレンドとの仲も、相変わらずアットホームなものであるようです。作業所での人間関係も良好なようで、これらは安堵の材料となりました。
「わたしがぽっくり死んでしまったほうが周囲の人間のためにはいいかもしれないけれど、まだ今は死にたくない、死ぬないと思いますね」と彼女はいいました。
外観は変わっても、内面は少しも病のあとをとどめず、育ちのよさ、豊麗な感性、優れた知性、ユーモアのセンスは昔ながらであるばかりか、包容力と柔軟性が加わった彼女の人間的な魅力に、わたしはまさに魅了されました。
ただ、時折、話に辻褄の合わないおかしなところが混じったり、話がとめどもなくなったりしました。ご家族が心配して外出時間を制限されたのもなるほどと思わせる変調は確かにあり、調子がいいとはいえないようでしたので、わたしは彼女との時間をよいものに保つために、ときどき舵取りに集中しました。
娘がいいクッションとなってくれました。彼女は娘を気遣い、また興味を持って、あれこれ話しかけてくれました。笑いの花が咲きました。
彼女と別れたあとで娘に「ねえ、すてきな人でしょう? あんな人はめったにいないわよ」というと、娘も深々と頷きました。
彼女はどうしたことか、薄手の上着を2枚プレゼントしてくれました。
お菓子にしては軽いな、と思いながら家に帰ってプレゼントを開けて、とまどいました。こんな互いの趣味に踏み込んだプレゼントは、初めてだったからでした。
その服は2枚とも、一見したところ、感じはいいけれど、どうということもない服に見えました。ところが、着てみると、びっくりするくらいわたしを引き立ててくれる服でした。こんなにわたしにぴったり合う服は今まで着たことがありませんでした。
どんな服を試着しても、買っても、何か違う、服なんて嫌いだ、と思ってしまうのですね。ところが、この服は……。
凛とした、それでいて、ほのかに女らしさが漂う、素敵な服! 本当に気に入りました。
1枚は、ブラウス風の焦げ茶色に小花を散らしたシースルーの上着でした。シワ加工が施してあります。もう1枚は、テンセルのハイネックカットソーでした。白地に細い黒色の横縞が入っています。
鏡の前で(服に)うっとりしているわたしを、娘がほしそうに見ています。1枚は娘にかもしれないと思い、そういうと、「2枚とも、ママにだよ。ぴったりだもの」と娘はいい、自分も彼女に服を選んで貰いたいといいました。
こうした趣味を披露されると、しみじみ自分の趣味が野暮ったいものに思えてしまいます。
作品に関してもそうなのです。わたしの作品も文学観も彼女に比べれば、どうしようもなく野暮ったくて、隅々まで行き渡るようなハイレベルな知性を感じさせるものにはほど遠いのです。
頑張ってお洒落していったつもりのわたしを、彼女はどう思ったでしょうか。
彼女から貰った服は、ずっと大事に着よう、死ぬときはこれを着せてお棺に入れて貰いたい、と思いました。
彼女との間に一定の車間距離をとった関係を長年続けてきて、こうした隔てのある自身のつきあいかたに対し、自責の念に駆られることがありました。
ですが、わたしのような、いわば客観性の保てる位置からの交流というものもあっていいのではないか、案外彼女には必要ではないかと今回、思いました。
ちょうどこの記事を書いていたとき、娘が彼女からの葉書を手に帰宅しました。悪いけれど、引用させていただきたいと思います。
前略
今日はお会いできて 本当に嬉しかったです。Nさん〔※わたしの名〕、いつまでも 私の おともだちで いてくださいね。本当に ありがとうございました。 Mさん〔※娘の名〕 いつまでも 清らかなキャラでいてくださいね!
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