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2007年12月17日 (月)

坂口安吾のマドンナ矢田津世子が愛した詩人レミ・ドゥ・グルモン~『雪』をご紹介

 冬、ことに雪というと連想する詩があります。レミ・ドゥ・グルモンの『雪』です。この詩は、雪にシモオヌという女性の面影を重ねた絶品ではないでしょうか。

 グルモンには他にもシモオヌを謳った詩がありますが、わたしが忘れられないのは『雪』です。初めて、読んだのは大学生の頃で、ぼーっとして時間が経つのを忘れてしまった記憶があります。

 作家坂口安吾のマドンナといわれる、この人も作家であった矢田津世子に関する評伝『花陰の人――矢田津世子の生涯』(近藤冨枝、講談社、昭和53年)に、グルモンは津世子の終生愛した詩人とあります。

 わたしは坂口安吾に対するのとはまた違った意味で矢田津世子の繊細な小説が好きなので、彼女もグルモンが好きだったんだなあと思うと、嬉しい気分になります。

 津世子にグルモンを教えたのはお兄さんだったそうですが、そのお兄さんにインタビューがなされたときのことで、次のようなことが評伝には書かれています。

 レミ・ド・グウルモンは津世子の終生愛した詩人だが、何度目かのインタビューのとき私は不二郎氏にこのことを質問した。と、彼は1冊の古めいた本をとり出すと静かに頁を開いて朗読をはじめた。

  枯葉      レミ・ド・グウルモン
シモオン、森へ行かうよ
木の葉が散つてゐる
散つた木の葉は
苔を、石を、小路を埋める
シモオン、枯葉を踏む音は好きか

 ここまで読んだ彼は、
「これすき、殺されちゃう」
 と小さく叫び、
「涙が出るほどいい詩人なんだ」
 とため息し、
「わかる。男色の詩よ」
 と解説する。妹へもこういう風な態度でいつも教えていたのだろうと私は推察するのだった。

 グルモンが男色。ちょっと混乱してしまいましたが、詩の価値に変わりはないと感じました。それでは、上田敏訳で、『雪』をお届けします。

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆

  
          レミ・ドゥ・グルモン

シモオヌよ、雪はそなたの頸(えり)のように白い、
シモオヌよ、雪はそなたの膝のように白い。

シモオヌよ、そなたの手は雪のように冷たい、
シモオヌよ、そなたの心は雪のように冷たい。

雪は火のくちづけにふれて溶ける、
そなたの心はわかれのくちづけに溶ける。

雪は松が枝の上につもつて悲しい、
そなたの額は栗色の髪の下に悲しい。

シモオヌよ、雪はそなたの妹、中庭に眠(ね)てゐる。
シヌオヌよ、われはそなたを雪よ、恋よと思つてゐる。

『世界の詩32 上田敏訳詩集』(編者・河盛好蔵、彌生書房、昭和41年)

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