フランスの女性詩人マリー・ノエルの作品をご紹介~ノエルはフランス語でクリスマス
その名(ペン・ネーム)をマリー・ノエルというフランスの女性詩人の作品『ろうそく祝別の日』を、田口啓子訳でご紹介します。
註に、ろうそく祝別の日とは、「聖母マリア清めの祝日ともいう。2月2日。イエスが生後40日目に清めの式を受け、マリアがイエスを奉献するために神殿に赴いたことを記念して、ともしたろうそくを持って行列が行われる」とあります。
また、本名マリー・メラニー・ルジェのマリー・ノエルというペン・ネームの由来については、以下に年譜から引用させていただきます。
1904年 21歳
この年のクリスマスに、二つの不幸な出来事に遇う。彼女が心を寄せていた青年が、オーセールを去っていった。さらに、クリスマスの翌日にまだ幼かった末の弟がベッドで死んでいるのを発見した。この悲しい出来事ゆえに、彼女は「マリー・ノエル」と名のるようになる。「ノエル」とはフランス語でクリスマスのことである。彼女は後に、「『マリー・ノエル』とはわたしの恩寵の名前であり、同時に不幸の名前でもある」と語っている。
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ろうそく祝別の日
人々とその運命が
ろうそくを持って進み、
人々とその運命が
夜明けの中を進む。ろうから炎を
外に連れ出し、
からだから魂を
外に連れ出していく。人類に属する者たちが
――たどるべき道はどこから始まるのか?――
人類に属する者たちが
道をたどっていく。ともされた彼らのろうそくが
神の周りを回り、
真ん中で見ている
神の周りを回る。・・・・・・・・・・・・・・・・・・
供物を抱いて
母親は進み、
子供を見せて
母親は進む。彼女は朝の官能の
果実を持っていき、
彼女は夜の苦しみの
果実を持っていく。重い捧げ物を
父親は手にし、
高価なパンを
父親は手にしている。何も持っていない老婆は、
他人の子供以外に
何も持っていない老婆は
奪った子供を抱いてる。疲れてよろめく老人は
その歩みさえ居眠りし、
疲れてよろめく老人は
震えながらついていく。何もできない神に、
人を人にする以外
何もできない神に
彼らは両手に持っていく彼らが捧げた血を
彼らのささやかな成果を
彼らが捧げた血を
生まれた息子を。わずかな喜びとなるはずの
初々しい子供を抱き、
大きな苦痛となるはずの
初々しい子供を抱く。生きていくように、
奪わなければならない子供、
死んでいくように
奪わなければならない子供、・・・・・・・・・・・・・・・・・・
人々は道を
――かすかに陽が射す――
人々は道を
ろうそくを手にたどっていく。ゆっくりと進んでいく
神に向かって――炎がゆれる――
ゆっくりと進んでいく
神に向かって。ろうが溶ける。彼らは神の前を通り過ぎる
――ろうそくが次々と――
彼らは神の前を通り過ぎる
今日という日に沿って。儀式をつかさどる
永遠の司祭、神
祭壇から下りて
永遠の司祭、神は、ろうそくの炎を
彼らの手から取り返し、
明日のためにろうそくを
彼らの手から取り返す。神は夜明けの薄明かりのなかで
ひと吹きの風で
神は夜明けの薄明かりのなかで
一つずつろうそくを消していく。そしてもう誰もどこで
いつ神が吹き消したのか
もう誰もどこで 魂が
去ったのかわからない。『マリー・ノエル詩集 双書・20世紀の詩人 20』(田口啓子編・訳、小沢書店、1995年)
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