父の問題 その十一:手のひらを返した調停委員たち
家庭裁判所の待合室には、玩具や絵本が置いてあります。子供がこうした場所へちょくちょく来ることもあるんだな――と思うと、胸が痛みました。
父夫婦が申立人となって起こした調停は、わずか2回で打ち切られました。
相手方のうち、佐賀県内の市役所に勤めている従兄は議会中ということで欠席。従兄の車に乗って来るのでなくては出席が無理な高齢の伯父も欠席せざるをえませんでした。
従って、第2回目の調停の相手方として出席したのは、わたし、妹、叔母(父の妹)でした。
父夫婦が2人一緒では、父が主導権を握って捲くし立て、それに奥さんがエールを送るの図になるのが関の山だと思ったので、わたしは奥さんだけと話したいと申し出ました。
調停委員はそのように取り計ろうとしてくれたのですが、奥さんだけでは絶対に駄目だとの父夫婦。このまま不成立ということで、打ち切りにするか、2人一緒でもいいかと訊かれ、わたしたちはそれなら一緒でもいいといいました。
父は調停室に入って来しな、フラフラとわたしの横に座ろうとしたのですね。ところが、ハッとしたように別の場所に腰かけた奥さんのほうを見て、そちらへ行って座りました。
案の定、父は奥さんにいいところを見せようとして、語気を強めたり、鋭くしたりしながら、いいたい放題。無機的な目をして。奥さんも同じく無機的な目をしていました。
欠席した従兄に対して、父は、しょっ引くぞだとか、目に物見せてくれるだとか息巻き、奥さんは、わたしたちそれぞれに詐欺罪と文書偽造罪と横領罪による3,500万円の損害賠償を請求するといいました。
男性調停委員はあとでわたしたちに、奥さんに関していいました。「わたしは医者ではないから、個人的な感想にすぎませんが、あのかたは相当重症ではないでしょうか。あなたがたのお母さんがお亡くなりになった頃、あのかたはまだ全然あなたがたと出会ってもいなかったわけでしょう? それなのに、まるであなたがたの姉妹の1人として、お母さんが亡くなった場にも一緒に居合わせたかのような口ぶりでしたね」
そう、わたしたちが母を殺し、父の殺害を企てているといったかと思うと、次の瞬間には父を人殺しに仕立てようとしているといったり、何年も前に高齢で亡くなった近所のおばさんと父ができていたといったり。
そうした父が関わる変な話のとき、当の父はろくに聞いていない様子でした。
奥さんが、わたしたち姉妹に「うちの人が死ぬときも、あなたがたには絶対に来てほしくない。財産を横取りされたくない」といったときも、父はそうそうと無邪気に同意していました。
本当に父の頭が変だと思ったのは、妹宅に行ったときの話で、父が「穴倉みたいに真っ暗だった。おまけにガラクタだらけだった」といったことです。勿論、妹宅は一般的なものです。
父夫婦にとってわたしたち姉妹は、神出鬼没で、この世の悪事という悪事に通ずる大魔人であるかのようです。
わたしたちはもう言葉を返す気力も失せて押し黙り、ただ父たちのいうことに耳を傾けていました。ときどき、あまりのことに耐えかねて言葉を挟むと、それが父たちを喜ばせるようで、彼らは嬉々として盛り上がる始末。
わたしは、昔クリスマスの頃に観た映画『グレムリン』を思い出していました。ハムスターに似た小怪物が暴れ回る映画です。
調停は不成立ということで、今回で打ち切られることになり、父たちは帰って行きました。
彼らが納得したと思いますか? いえいえ、そんな甘いことではなくて、何と父は検察庁に行ったというのです。
検察庁が指定してきた今月の26日に、そこでわたしたちのことをいうつもりにしているため、もうこの調停のことはどうでもよくなっていたのであって、それで大人しく帰って行ったのでした。
今度は検察庁かと思うと、本当に暗澹とした気持ちにさせられます。もう父たちを理解したいという思いすら失せました。
妹は、「何も悪いことはしていないから、検察庁だろうとどこへだって行っていいよ」などと父にいっていましたけれど、一応法学部出で、冤罪のことなんかも資料漁りしたことのあるわたしとしては、どんなかたちであれ検察庁なんかとは関わり合いになりたくないという気持ちです。
そして、今回の調停で何よりわたしが驚き、失望したのは、女性調停委員が、検察庁で話をするという父の気持ちに油をそそぐようなことをいったことでした。検察庁でよく話すようにと、励まさんばかり。
わたしは前回ひじょうに親切で、時間を大幅に延長してまで相手をしてくれた彼女の真意を測りかねていたのですが、彼女は父たちが帰ったあとでいいました。
「このこと(※わたしたちを訴えること)が、お父さんの仕事になっているのね。結局、どこでもこれまで迷惑だったろうと思うんですよね。弁護士事務所でも、司法書士事務所でも、どこででも。検察庁にしたってそうでしょうから、どうせ、相手にされないと思いますよ。どこでも、相手にできないから、わかったわかったといって、よそに回すんですよ」
前回、父たちのよりよき今後につなげるために、医師を交える調停の場を設けてくれるといったはずの女性調停委員は、そして自分も同じことをなさったというわけです。
わたしはそれはあんまりだという気がして、医師を交えるという話に期待していたといいました。が、医師の出てくる日と曜日が合わないからといって、2人の調停委員たちは、取り合ってくれませんでした。
自分たちのほうから医師のことをいい出しておきながら。
わたしは10年前から、父の奥さんが精神疾患ではないかと疑ってきたのです。それを父にいったことで父がわたしに態度を硬化させるという逆効果を招き、やがて父までもおかしくなっていきました。
それでも、2人に診察を受けさせることができず、いつか他人に何かした場合でなくては行政的な強制手段がとれないというのですから、そこへ調停委員たちが医師の話を持ち出せば、そのことに期待をかけないはずがないではありませんか。
だいたい今回は調停の初めから、彼らは何か手のひらを返したようなそっけなさで、早くこの件を終らせたいといわんばかりだったのです。前回時間を食った分を取り返したいとでも思っているかのようでした。
その原因をつくったのは、おそらくこの件をプロデュースした書記官であるだろうと思っています。なぜなら、彼は前回、同席していた間、しきりに溜息をついていましたから。
あとで、その書記官に父の初印象を伺いましたが、彼は「何をいっているのか、さっぱりわからなかった。だけど、調停を希望されれば、受け付けないわけにはいきませんからね」といいました。
この日他にもうちと似たようなケースの調停がいくつか行われていたという話でもありましたから、前回の調停のあとでおそらく、書記官と調停委員たちのあいだで、この件を早く終らせることに取り決めがなされたのでしょう。
裁判所側の事情はわかります。それでも、権威を持って呼びつけておきながら、あの態度は全くひどいなという気がしました。
でも、この際訊いておけることは訊いておこうと思い、わたしは女性調停委員に、「もし父たちが2人とも精神疾患であることがはっきりした場合、子供としてわたしたちはどうすればいいのでしょうか? どこまで関わる義務がありますか?」
彼女はちょっと考え込み、答えてくれました。「その場合は、保健所の管轄になります」
また書記官に、この、父夫婦が申立人となった調停について、今父たちのことでお世話になっている福祉関係者に電話で話して貰うとか、一筆書いて貰うことはできないかと訊いてみました。
というのも、福祉関係者には妹が一方的に父たちの情報をもたらしただけで、第三者からの情報というものが欠けているからです。
それはできないとの書記官の言葉でした。ただ、「親族間の紛争調整申立事件」「不成立」と書いただけの証明書でしたら、出せるそうです。
父夫婦は元気いっぱいで、意気揚々と帰っていきました。父が起こした調停の相手方を務めたわたしたち姉妹と叔母は、げっそりとしてそれぞれの帰途につきました。(父の問題 その十二へ)
写真は、佐賀駅前に立って撮りました。
※「父の問題」は、サイドバーのカテゴリーにあります。
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