ひとりごと(父の問題 その七:家庭裁判所からの呼出状)
裏側に薄く送り主である家庭裁判所の印の押された封筒が普通郵便で届き、マンション玄関の集合ポストにひっそりと入っていた。
ダイレクトメールと見紛うブルーの封筒で、これがダイレクトメールが頻繁に届いていた頃であれば、うっかり捨ててしまったかもしれない。
あとで代金を請求されてもいいから、こういうものは書留で送ってほしいものだ。なぜって、正当な理由がなく出頭しないときは、過料に処せられることがあるとあるから。
悪いことをした覚えはないので、別に逃げも隠れもしないが、うっかり捨ててしまった場合、正当な理由とは見なされないのだろうなあ。
ここから指定の家庭裁判所までは電車の便が悪く、時間的にもかかる。何せ持病持ちのわたし、体調次第では外出が困難になりかねないが、それいう場合は正当な理由と見なされるのだろうか。
大事をとって、前日から家庭裁判所のある街のホテルに泊まったほうがいいかもしれない。博多よりも遠いのだから、いずれにしても、今のわたしの体力では日帰りは無理だ。
呼出状には、親族間の紛争調整申立事件とあった。申立人には父の名。相手方にはマダムN外4名とある。外4名?
実は、昨夜、妹から電話があってポストに見に行ったのだが、4名のうち1名は妹だ。もう1名はおそらく、伯父か伯父の息子であるわたしの従兄だろう。残る2名は誰? 妹には見当がつかないという。わたしにもさっぱりだ。
父は、他に誰に迷惑をかけるつもりなのだろう。本当に申し訳ないと思う。
何しろ、父とは8年近く会っていない。8年前に、「俺たちに迷惑をかけるな」といわれたから。
それは、母の法事で帰省したときに、わたしが大泣きしたことが原因だったと思う。そのとき、婚家の義父母から帰りしなに玄関で物凄い目で睨まれ、見送ったのち、しばらくは堪えていたが、一族の前で大泣きしてしまったのだった。
婚家とは、嫁いびりがひどかったので、わたしの側からの交際を絶っていた。当然子供たちも。夫は当時も今も自由に行き来している。
父はいった。「うちには決して帰ってくるな。お前が帰ってきて家に居座るのではないかと、あれが心配しているから」
母が生きていればどうだったかわからないが、出戻ることなど考えたこともなかった。父は、亡くなった母のことも人にいうときは、あれ、といっていた。父に帰ってくるなといわれ、わたしは情けなく、悲しかった。
が、そのときは、実家に頼らず頑張れ、という意味かもしれないと思い込もうとしたりもした。それをいったときの父の情のない表情から、そうとはとれないことは、はっきりしていたのだが。
でも、その頃は気が触れている感じはなかったし、奥さんをたしなめることもなかったわけではない。
何にせよ、わたしたち姉妹の存在は父夫婦にとって迷惑以外の何ものでもなさそうなので、わたしたちはその頃から自分の側からの連絡をいっさい絶っていた。ここの住所も報せた覚えはなかったが、家庭裁判所からの封筒は届いた。
妹はやはりその時期に、別の傷つけられかたをしていた。何でも、父は退職金の税金対策としてわたしたち姉妹の子供名義で預金をしていたらしい(それが税金対策になるのかどうか、税金にも預金にもうといわたしにはわからないが)。
再婚するまえ、父はことあるごとに妹にその預金の話をして喜ばせていたようだ。なぜかわたしに父はそういった話をしたことがなく、わたしの子供名義の通帳があったことはずっと知らなかった。父は実家を妹夫婦に譲るつもりでいたので、そんなところからだろうか。
いずれにせよ、父は孫たちと積極的にスキンシップをとったりもして、可愛がってくれていたのだが、再婚後のその頃、通帳の名義を奥さんに変えると妹は父からいわれたらしい。そして、他にも傷つけられることをいわれ、縁を切ると父にいわれたようだ。
全て父の1人芝居であるにすぎないのに、通帳のこと、土地のことなどで、あれこれ父はいってくるわけなのだ。何をいっているのか、わからないことも多い。
わたしたち姉妹は父の財産などあてにもしていず、こちらからは連絡すらとりはしないというのに、それこそ追いかけてきて、言いがかりをつけてくる。
調停では、こちらの言い分はきちんと述べるつもりだ。昔のことをいわれても、ぼーとなって、思い出せないかもしれないが。父は事細かに日記をつける習慣があるので、何かには強いところがあるだ。
父は書くことが好きだし、すぐに法律を持ち出すくらいだから、法律も嫌いではないのだと思うと、わたしは父に似ているとつくづく思う。
ただ困ったことに父の教養は主に大衆週刊誌で培われていて、おまけにテレビドラマのミステリーものが大好きときている。わたしたち姉妹は父の恰好の材料なのだ。勘弁してくれ。
奥さんは、とにかくよくお金のことや幽霊のことを父を通していってきていた。母の幽霊の責任をとれといわれても、困惑してしまう。幽霊は見えないし、自称神秘主義者のわたしは、わたしなりの感性でとっくの昔に母がきちんと成仏していると感じているから。
お金のことは「あなたこそ、父の財産、狙っているんじゃない?」といいたいし、母の幽霊については彼女の妄想か、母の姿を借りた悪戯な低級霊の仕業だと想像する。神秘主義のテキストには、こうした現象について細かな分類がある。彼女は低級霊を呼び寄せてしまう霊媒体質なのだろう。
父の申立の相手方であるわたしたちは、一体、何をいわれるのだろう。
どちらにしても、もう父とは第3者を交えてでなければ話せない状態にあった。期日はおよそ1ヶ月後。こんな手に負えない父でも、8年ぶりに会えると思えば、心のどこかでわたしは喜んでいる。怖ろしい気もする。父はどんな目をしているのだろうか。
こんなかたちで、父と再会したい思いが叶うわけである(絶句)。
この調停のことなども、父を見守ってくれている福祉事務所には報告しておいたほうがいいだろう。
昨日、父の俳句を作ったが、何かしら予感がしたのだ。〔父の問題 その八へ〕
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