フジコ・ヘミング、ソロコンサート②『革命のエチュード』の素晴しさとベーゼンドルファー
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今、家にあるフジコの4枚のCDのうちから、「憂愁のノクターン/フジ子・ヘミング」(ビクター、2000年)に収録されている『革命のエチュード』を聴きながら、この記事を書いている。
これが、今回のフジコのコンサート中、わたしの記憶に最も焼きついた曲だったからだ。
コンサートで演奏されたその同じ曲をこうして聴いてみても、そのときの感銘は鮮明には甦ってこない。あのときのものとは違う――そう思ってしまう。
生との違いなのか、そのときの演奏自体との違いなのか。
正直いって、あまりにも有名すぎてわたしには陳腐とさえ感じられていた『革命のエチュード』。
それまでに聴いたこの曲から、自身が経験したこともない革命を生々しく感じさせてくれるだけの衝撃を与えられたことは1度もなかった。
それで、プログラムの中にこの曲を見つけたときも、「何だ、『革命』か。『木枯らし』だったらいいのにな」と思ったくらいだった。『革命』よりもむしろ『木枯らし』のほうが好きだったから。
優れたピアニストの手によらないショパンの曲ほど、退屈なものはない。あまりに退屈な『革命』を聴きすぎたのかもしれない。
CDには『革命』について、次のように解説されている(原明美による)。抜粋してご紹介したい。
ショパンがウィーンからパリへ向かう途上、立ち寄ったシュッドガルトで、故郷のワルシャワがロシア軍の侵入を受けて陥落したことを知り、絶望と怒りをこめて書いた、というエピソードが伝えられている。
これほどまでに深刻なテーマの曲が練習曲集に入っているというのは、不思議なくらいだ。
そして、今回のコンサートでフジコが弾いたこの曲は、素晴らしかった。ショパンのそのときの鼓動が感じられるような生々しさがあった。
左手が世のどす黒い動きを伝えていた。右手が、人間的な声を、情感を伝えていた。
左手の不気味な音色が右手の人間的な訴え、嘆きを、光を際立たせる陰のような働きかたで浮き彫りにしていた。とにかく、左手によって奏でられる響きが印象的だったのだ。
今、ふと思ったのだが、これにはベーゼンドルファーというピアノがかなり与っていたのではないだろうか。
①で書いたように、フジコを後半のプログラムで荒馬的に苦しめた(とわたしには思えた)ベーゼンドルファーという低音部に未知の魅力を秘めたピアノが、このコンサートで用いられたピアノだった。
あの左手の奏でる音色の迫力、濃やかさといったらなかった。……ロシア軍の包囲網……市井の人の息遣い……血生臭さ……それらが感じられるようなあんな味わいが出たのは、ベーゼンドルファーという類稀なピアノと、フジコという優れた弾き手との邂逅があってこそのことだったと思われる。
様々な意味において、芸術というものの力の凄さを思う。
感激したことに、今回のコンサートでわたしは彼女のオーラを初めて見た。
わたしの見間違いでなければ、わたしと同系色のオーラだった。勿論、違いはあるだろう。わたしのオーラはこれまでに大きく2度変化して、現在の色になった。これからも変っていくのだろう。フジコのオーラも。
いずれにせよ、フジコもわたしも現在は途上の人の色、求道者の色を持っている。その色に生きているといえる。
※イングリット・フジコ・ヘミングはカテゴリーにあります。
以下は、休憩時間にとったわたしのメモから――。
フジコのファッション。上から羽織っている衣装は、朱色の鯉が描かれた着物。スカート(?袴にも見える)は墨色。背中に結び目のある紐とペンダント。白い髪留め。
ピアノ。鋭い、甲高い。下の方はまろやか。全体の音色としては豪華。低音部、高音部共に特徴的。スタインウェイのように均一な感じではない。
「革命」→左手が、世のどす黒い動きを伝えている。右手が、人間的な声、情感を伝えていた。
ピアノとの邂逅を受け入れ、確かめ、味わっているかのよう。
前回のコンサート同様、修行僧のように見える。フジコが蓮の花、あるいは雲にのっているように世俗離れして見える瞬間があった。
案外、御し難いピアノなのではないだろうか?
以下は、休憩時間後の演奏中、演奏後にとったメモ。
フジコのファッション。上からは紫色の着物。朱の手毬、白い流水(?)の模様。白地の帯。白いブラウス。黒のパンツ。中にやはり黒のスカートのように見える衣装。場内から「可愛い」の声。
ピアノ。高音部が如何にも甲高く響く。高音部はかたい。
亡き王女のためのパヴァーヌ。祈るような……。愛の夢の演奏に入る前に、フジコはメモを取り出し見る。かなり近視?
オーラは*色? 間違いない。*色に近い*色も見える。*色。
ハンガリー狂詩曲で、おかしなところがあった。
盲導犬ラムちゃん。フジ子の寄付。200万円。盲導犬協会には50万円。「皆さんも自分のことばかり考えていないで、寄付しなきゃだめよ」とフジコ。
投げキッスをして、舞台から消えるフジコ。
コンサートの後、商店街を通って帰っていく盲導犬たちが可愛らしかったので、思わず撮ってしまいました。勝手に撮って、ごめんなさい~。
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