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2007年5月26日 (土)

「あけぼの―邪馬台国物語―」連載第84回

 そのわたしに女王は「ええ、そうね、姪の遺言ですからね。お里で平和裡に暮らしていらしたところを、またこちらの勝手な都合で、あなたには相済まないことだと申し訳なく思っておりますよ」と、歯切れ悪くおっしゃって、何となく話を打ち切っておしまいになりました。

 これまで女王から受けたこもなかったような冷ややかな感触を受けたわたしの心臓が、早鐘を打ち出しました。

 何ということでしょう! 女王は、わたしに御子を任せることに懸念がおありになるのです……! それは疑うすべもない直感でした。

 ですが、尤もな話です! わが身を振り返ってさえみれば、それは女王ほど卓越した御方にではなくとも、まともな観察力のある人にであれば、当然見破られ、抱かれて然るべき危惧であることがわかるのでした。

 ある意味でわたしは、自分でも説明のつかない主体性の下に生きているわたしという人間は、他ならぬ女王がその才覚においてひじょうに買っておいでではあるにしても決して腹心の、とは言い兼ねられる、現に灰色、あるいは黒色であるような男――イサエガ――と密通していると言ってもおかしくない立場にいたのですから!

「トヨは姪に似ておりますね。この秋は白露が降りなかったのでもなかったのに、姪は逝ってしまった」と幽(かそけ)くおっしゃる女王は、もはや、わたしを見てはいらっしゃいませんでした(白露の有無で病の流行を占う風習が中国にあります)。

「お亡くなりになったことが耐え難く存ぜられます」と申して、わたしは消え入りそうなお辞儀をし、逃げるように退出したのでした。〔

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