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2007年2月 9日 (金)

「あけぼの―邪馬台国物語―」連載第78回

 苦しい道行を終えて、目的地へと着きました。

 そびえる楼閣、めぐる城柵、威儀をただす見張りの兵、しっとりとした宮殿への道……、それらは12年前に初めてイサエガに連れられて来た時と、時を遡りでもしたかのように何もかも同じに見えました。

 ところが今のわたしは、不思議な安心のうちに眠ってしまったその時とは裏腹に、何もかも鈍くなったような不自由な感覚の中で、頭の芯ばかりが白光しきっている苦しさから大きく眼を見開いているのでした。

 宮殿は憂いに沈みわたっていました。夕刻になって人々に混じり、川を渡って、殯(もがり)の宮へ参りました。

 喪主のトシゴリ氏は、庶民的な雰囲気が持ち味の明るい方でしたけれども、この日は最愛の方をお亡くしになった悲しみの色も濃く、そのことが却って、この方の外交官としての内に秘めた理智や亡き御方の淑徳にも似た、人としての徳を際立たせるよすがとなっていました。

 殯の宮にいた間、どうした訳か女王を拝顔できませんでした。

 内密にお見えになったという傍の官女たちの話でしたが、わたしは変だという気が頻りにして不安に駆られ、何かと話しかけてくる年若い官女たちに物も言えなくなってしまいました。

 その時、ヨモギが、キラリとわたしを見つけ、何かしら会得したような濃い表情を形作ったかと思うと、あたかも――話に聞く――餌を発見した鮫のような、流れるような身ごなしで、近寄って来ました。〔

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