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2007年1月12日 (金)

「あけぼの―邪馬台国物語―」連載第76回

   第四章

 目覚めなければ、と夢の中でもがく人のようにわたしは老いの兆した叔母の顔を見つめ、うわ言のように繰り返しました。

「叔母さんは、この家の火を守る女司祭ですわね? わたしはわたしの火のある場所へ赴くの。寿いでくださいね……」

 わたしが旅立つ支度を終えても、寝床で身を震わせている叔母でした。今までの叔母は何処へ行ってしまったのか、全くわかりませんでした。

 無垢というには愚かしい、愚かしいというには無垢な、淡く怯えたまなざしで叔母はわたしを見つめたきりなのです。まさか、ショックで惚けたのでは、という懸念が走り、わたしは愕然となりました。

 しかし、どうやらわたしの気力の方も限界に来ていたのでしょう。叔母のまなざしを振り切るようにして叔父に別れを告げ、家を出ました。

 霧の立ちやすいクニなのですけれど、この朝の霧は格別に深く、乳色の中をもがくようにわたしは歩いてイサエガを捜しました。馬のいななきが聴こえました。

 おののきながら近寄ると、馬の陰から姿を見せたイサエガが物も言わずにわたしを捕らえ、軽々と抱き抱えると馬の背に跨らせ、自分も飛び乗って、駿馬を駆ったのです。

 イサエガの荘重な肉体がわたしの背中に緊密に張りついていました。なめらかな筋肉の張りが衣を通して生々しく伝わってきました。馬の背は生あたたかでした。

「みどりごは死にました。わたしのお乳を吸わずに死んだのです……」〔

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