児童文学作品はこれまでに書いた部分の見直し、パムク氏は364頁
中断していた児童文学作品の続きを書くことにした。とにかく、完成にまでもっていきたい。中断したときから、かなり時間が経ってしまったので、まずは見直しから始めようと思う。
オルハン・パムク著『わたしの名は紅』(和久井路子訳、藤原書店)は、名人オスマンが殺人事件を正式に勘定方長官から知らされたときのことを語る章を読んだ。近衛兵の隊長も在室している。隊長はスルタンの名の下に処刑や拷問を実行する人物だ。
オスマンは細密画の工房の頭なのだが、彼は聾桟敷に置かれていた。スルタンは元高官であったエニシテに祝賀本の作成を命じ、エニシテはオスマンの可愛い細密画師たちを使って愚にもつかぬ絵を描かせたばかりか、殺し合いまでさせた。
オスマンの認識は、こうしたものである。彼は、勘定方長官に事件を知らせて亡きエニシテと自分が潔白であることを訴えたカラ、結婚するために奇妙な動きを見せたカラを、当然ながら快くは思わない。
「彼には尋問で拷問にかけてください」とオスマンはいう。
オスマンは細密画師の工房に、すでに失望していたようだ。というのも、彼は次のように述懐するからだ。
わしが頭となっているスルタン様の細密画師の工房では、既に昔のように傑れたものは作られない。さらに悪くなるようにすら見える。全ては衰えて尽きる。一生をこの仕事に心から捧げたにもかかわらず、ヘラトの昔の名人の美しさは、ここではめったに達せなかったことを苦々しく感じている。この事実を謙虚に受け入れることが、人生を多少とも楽にしてくれる。元々、謙虚さは人生を楽にするもので、わしらの世界では価値ある美徳なのだから。
その行き詰まった世界に、イタリア絵画の精神と技法という新しい血を入れることで再生させようとしたエニシテの試みは、オスマンには邪道としか映らなかったようだ。
行き詰まりといえば、今の日本の純文学界を連想させられる。
とはいえ、わたしはオスマンや細密画師たちとは違い、当事者たちの中には入りたくとも(その実力がなくて)入らせては貰えないので、一庶民、一文学かぶれのおばさんとして、傍観者として、今の純文学界を司っている人々が勝手に行き詰まらせていると腹立たしく感じるばかりだ……。
そういえば、アラビア半島に位置するカタールの首都ドーハで、アジア大会の開会式が行われ、式典の模様をテレビで観た。
五輪を上回るといっていいような、豪華な式典に驚いた。アトラクションでは、アジア諸国の、そしてカタールの文化が紹介された。
イスラム圏の民族衣装、踊り、民謡を味わう機会はめったにないので、テレビに齧りついて見た。女性たちの黒一色の衣装から薔薇色の衣装への変化、踊り、唄……渋さとあでやかさとが何とも見事に溶け合っていて、魅了された。
カタールはオスマン・トルコ帝国に占領された過去を持つ。『わたしの名は紅』を彩るイスラム世界を、式典を通して垣間見たような気がした。
※パムク氏の記事は多くて、右サイドバーのカテゴリーに「オルハン・パムク」の項目があります。クリックなさって、ご参照ください。
| 固定リンク
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 日本色がない無残な東京オリンピック、芥川賞、医学界(またもや鹿先生のYouTube動画が削除対象に)。(2021.07.20)
- 芸術の都ウィーンで開催中の展覧会「ジャパン・アンリミテッド」の実態が白日の下に晒され、外務省が公認撤回(2019.11.07)
- あいちトリエンナーレと同系のイベント「ジャパン・アンリミテッド」。ツイッターからの訴えが国会議員、外務省を動かす。(2019.10.30)
- あいちトリエンナーレ「表現の不自由展」中止のその後 その17。同意企のイベントが、今度はオーストリアで。(2019.10.29)
- あいちトリエンナーレ「表現の不自由展」中止のその後 その16。閉幕と疑われる統一教会の関与、今度は広島で。(2019.10.25)
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- トルストイ、イルミナティ、マルクス……と調べ出したらきりがない(2016.09.07)
- 連続して起きると頭がフラフラしてくる不整脈とマイナス思考(2016.01.04)
- 癌と闘っている、双子みたいな気のする男友達 ⑤一般病棟に復帰(2015.05.19)
- 幼馴染みから、30年ぶりの電話あり。久しぶりに動画で観た安奈淳(追記あり)。(2015.04.15)
- 癌と闘っている、双子みたいな気のする男友達 ③ああよかった、まだ生きていた!(2015.03.01)
「児童文学」カテゴリの記事
- (29日に加筆あり、赤字。夜になって再度の加筆、マゼンタ字)エッセーブログ「The Essays of Maki Naotsuka」に49、50―アストリッド・リンドグレーン(2)(3)―をアップしました(2021.10.29)
- Kindle版電子書籍『枕許からのレポート』、『結婚という不可逆的な現象』をお買い上げいただき、ありがとうございます!(2021.01.04)
- 8 本目のYouTube動画「風の女王」をアップしました。ビデオ・エディターの不具合で AviUtl へ。(2020.06.30)
- 6本目のYouTube動画『ぬけ出した木馬(後編)』をアップ。さわやかな美味しさ、モロゾフの「瀬戸内レモンのプリン」。(追記、青文字)(2020.06.20)
- 4本目の文学動画『卵の正体(後編)』を作成、アップしました。動画作成のあれこれ。(2020.06.11)
「文学 №1(総合・研究) 」カテゴリの記事
- ついにわかりました! いや、憶測にすぎないことではありますが……(祐徳院三代庵主の痕跡を求めて)(2023.07.04)
- 第29回三田文學新人賞 受賞作鳥山まこと「あるもの」、第39回織田作之助青春賞 受賞作「浴雨」を読んで (2023.05.18)
- 神秘主義をテーマとしていたはずのツイッターでのやりとりが、難問(?)に答える羽目になりました(2022.06.22)
- 萬子媛の言葉(2022.03.31)
- モンタニエ博士の「水は情報を記憶する」という研究内容から連想したブラヴァツキー夫人の文章(2022.02.20)
「創作関連(賞応募、同人誌etc)」カテゴリの記事
「オルハン・パムク」カテゴリの記事
- またノーベル文学賞の発表の季節ですか(2008.10.05)
- 入院14日目⑤読書ノート∥オルハン・パムク『雪』№1(2008.08.25)
- 村上春樹とオルハン・パムクについて若干(2007.07.21)
コメント