「あけぼの―邪馬台国物語―」連載第74回
ヤエミ様は五人の舞姫の眼前にお立ちになり、手本としての舞を披露してくださいました。
派手なヨモギの舞に幻惑され、知らず知らず彼女の舞を真似るようになっていたわたしは、ヤエミ様の舞が簡潔と言ってよいほどすっきりとしていたことを、心地よい心の震えと共に再発見しました。
舞が終ってから、深紅色の衣をしっとりした緑の衣の上に御召しになったお傍近く、緊張するあまり、わなわなとなって控えていたわたしにヤエミ様は、わたしのことを覚えていますか、とお尋ねくださり、あの時の9つの少女に返ったようになったわたしは、ごくんとうなずきました。
ああ、まぎれもないヤエミ様のお傍にいるのだと思うと、我が身まで冴えわたる玉となって、乳色と透明な薔薇色をひろげたサファイア色を醸しました。
それにお気づきになった気配がして、ヤエミ様のなつかしい薫り高い雰囲気に包まれる中で、調べが、さらさらとも、ころころとも、聴こえてきました。
それは幽明を一つとする神秘な滝の音――、まさしく、この御方の霊の音調(トーン)に他なりませんでした……。
音調は、7色の色域を秘し、金銀のすずしさも宿して乳色に満ちる、凛としてまろやかな玉の、しげしとばかりに降る滝の光景(ヴィジョン)として視覚化できたのです。〔続〕
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