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2006年12月 5日 (火)

「あけぼの―邪馬台国物語―」連載第72回

 3日ほど寝込んだ叔母でしたが、今日は近所の奥さんたちと連れ立って、梨を採りに出かけています。

 やがて、頬を上気させて帰宅した叔母は、「今度は妹も誘うわ。あの妹(こ)は生活に追われて疲れているんですよ。可哀想に……」と言いました。

 その言葉を聞いて、わたしはすっかり嬉しくなってしまい、「そうよ、叔母さん。ちい叔母ちゃんとたまにはそういうことをなさるべきよ」と、相槌を打ちました。

 叔母は微笑して、陽光に梨の色を透かし見るような仕草をしました。そしてふと、「もうすぐ、お月様のお祭りだわねえ」とつぶやいたかと思うと、またもやみじめな風情となってしまいました。

 わたしはおやおやと閉口し、これは更年期に伴う不定愁訴かしら、と内心思ったりしました。そこで、知らぬ顔をしていたのですけれども、まあ何と、叔母が泣き出してしまったのです。気丈なはずの叔母に泣かれる時ほど困惑することは、めったにありません。

 肩を震わせている叔母の後ろ姿におろおろと近寄ったわたしは、まるで子供がするように叔母に纏わりつきましたが、「どうしたの、叔母さん? まあ、嫌だわ。どうしたっていうの、叔母さん?」と尋ねるわたしの声は、母親めいたヴィブラートを帯びました。

 「あの男が、夢で、あの男が、またあなたを、さらいに来たんです……」と、叔母は言いました。

 わたしは叔母を掻き抱く腕(かいな)をゆるめました。イサエガが――?〔

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