「あけぼの―邪馬台国物語―」連載第65回
琴のお師匠さんから聞いた通りに、確かに、この方は中国に渡って五斗米道の道観(※道場)に詣でたし、そればかりか女冠(にょかん)(※女道士)になるべく、鬼卒(きそつ)となって、修行三昧の生活を送ったというのです。
この方の中国行きには、見えざる導きと加護があったということでした。
五斗米道の信徒は鬼卒(※初めての信徒)、鬼吏(きり)(※病気の祈祷を主とする)、祭酒(さいしゅ)(※『道徳径』別名『老子』の読み方を司る)の階級に分かれているのだとか。
柔和な面差しで訥々(とつとつ)と語る老嬢は、モモという名だそうです。話し方は弱々しい調子でしたが、玲瓏(れいろう)たる余韻を残す不思議な声音でした。
「そうですか。あんた、神殿にいたとね。女王連合国は、徳ある連合を志向する連合国です。そして、女王様は、その連合国の華(かがや)かしい首長です。
女王様のお祖父様は、とてつもない王様でした。精妙なる霊の御姿で、あちこちに出没しなさったし、『道徳経』にも精通していられました。わたしには、あのお方は王様以前に師でした。
口惜しかけど、わたしには、『道徳経』は少し難しいようにあっとさ。あんた、とくと勉強しなさるがよか。血の道を治し、結婚してもよかたいね。
臍(ほぞ)の少し上辺りを、時に優しく押してみてん。体によかけんね。
徳は、胸から出てきます。そうすると、自然に道(タオ)がわかる。
性交のときにはあんた、局部の右側に刺激を受ければ右脚、左に受ければ左脚が強うなり、中央に受ければ頭がようなっとよ……」
いえ、わたしはもうそうしたこととは縁を――と、口ごもったまま、わたしはぽかんとなってしまいました。
話の内容もさることながら、モモ老嬢の話す、モモ老嬢といる屋内が、光の交響曲で七色に満ちたからなのです。その中心にいるモモ老嬢は、なめらかに光って見えました。若草に置いた露の玉のようでした。〔続〕
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