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2006年9月23日 (土)

抗議の自殺未遂事件について

 構造改革が突貫工事で進められてきた感のあるわが国だが、改革の意義がどうであれ、やりかたのまずさ、いきすぎを証拠立てるような事件が、本日の朝日新聞朝刊に掲載されていた。

 記事によると、生活保護の受給を北九州市に打ち切られた66歳の男性が6月に小倉北区役所で割腹自殺を図ろうとし、銃刀法違反容疑で現行犯逮捕された事件があり、22日の公判で、男性は次のように供述したという。

「死ぬしか方法がなかった」「自分を犠牲にして、ちゃんとしてもらおうと思った」

 男性が割腹自殺をするまでの経緯で、目を疑わせる記述があった。

 土木作業をしていた男性が体調を崩し、区役所を何度も訪れて生活保護の受給を相談したところ、社員寮から住居移転することを求められ、移転手続きを進めたが、保護が認められなかったというのだ。

 社員寮で暮らせなくなった男性は簡易旅館で睡眠薬自殺を図り、入院。この時点で医療費と生活保護の支給が認められた。

 が退院の翌日に保護が廃止され、男性はホームレスとなる。再度区役所に生活保護申請を相談するが、「保護の適用期間は入院中だけ」といわれる。男性は翌日、抗議の割腹自殺を図った。

 行政側の、何という人を馬鹿にした、無責任な態度であることか……! 社員寮に住んでいては保護の支給が認められず、そこを出て住所不定になれば、保護の対象と見なされないということなのだ。

 抗議の自殺未遂に対する区役所側のコメントがまたふるっている。

「住所不定で生活保護が打ち切られるのは特別なことではない。我々は真摯に相談に乗った。どんな事情があっても、公共の場所で刃物を持ち出すことは許されない」

 自分たちが男性を住所不定者にしておきながら、何という他人事然とした言い種だろう!

 男性は、南区役所でも北区役所でも、「あっちに行け」「こっちに行け」といわれたという。一日中待たされることもあったらしい。いうまでもなく、男性は健康体ではないのである。

 わたしにはこの男性は、もろに行政の欠陥を押しつけられたとしか見えない。

 そもそも企業に対する規制緩和が、大量の失業者をさらには住所不定者を――働き口も住むところもなくなった人々を――うむ最大の原因なのだ。国はそのことに対して何の責任もとらないばかりか、こんなやりかたで人口を減らそうとしているのではないかとさえ思えてくるほどだ。

 一国は一人の人間のようなもので、国民の一人一人がそれぞれ一個一個の細胞だ。「勝ち組、負け組」などいう愚かしい考えは、ある器官が他の器官に向かって優位を主張するようなものではないか。

 ゴーゴリの「外套」、ユーゴーの「ラ・ミゼラブル」、ゾラの「居酒屋」などで描かれた世界に日本は急速に似てきている。それを読んだときには、およそ考えられなかったことだった。

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