夫の誕生日(カーリル・ギブラン『預言者』より、結婚)
今日は夫の誕生日です。
結婚して長いときが経過し、どこまでが夫でどこまでが自分かがわからなくなるくらい影響しあってきましたが、一方ではどこまでも彼は彼であり、どこまでもわたしはわたしでしかないという違いを噛み締めた日々でもあった気がします。
2年半ほど前に、彼が末期癌といわれたときは、どれほど自分が彼を頼りにしてきたかを痛感しました。それは紆余曲折を経て幸い誤診だったとわかりましたが、そのときに彼のほうでもわたしを頼ってくれていることがしみじみと感じられ、日々たわいない暮らしを送っているようでも、色々と考えることは増えました。
ところで、結婚したときに、今は亡き神智学の先生からカーリル・ギブランの訳詩を贈っていただきました。彼へのお祝いと反省とこれからへの思いを籠めて、その詩を再読しつつご紹介したいと思います。
その詩が収録されている『預言者』(カリール・ジブラン著、佐久間彪訳、1984年)という至光社から上梓された詩集があり、これも名訳ですが、やはりここでは贈っていただいた訳でご紹介いたします。
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結婚
カーリル・ギブラン作/田中恵美子訳
師よ、結婚とは何でしょう。
師はおっしゃいました。
君たちの魂は一緒に生まれたのですから、いつまでも一緒にいることでしょう。
死の白い翼が君達の生涯を離れ離れに散らせてしまってもやはり一緒におりましょう。
そうです。君達は神の沈黙の記憶の中でさえ一緒にいることでしょう。
けれども君達の「一緒」の間には隙間がなければいけません。
君達の間を天国の風が踊って吹きぬけなければいけません。お互いに愛し合いなさい。でも愛のきずなをつくってはいけません。
君達の魂の岸辺と岸辺の間には、波のうねる海があるようにしておきなさい。
お互いの杯を満たしなさい。けれども一つの杯で飲んではなりません。
お互いに君達のパンを分かち合いなさい。でも同じ塊のパンに一緒に口をつけてはいけません。
一緒に歌い踊りよろこびなさい。でもお互いは別々の人なのです。
リュートの沢山な弦は同じ音楽をかなで出しますが、皆一本一本、別の弦です。
君達の心を与え合いなさい。
でもお互いの手の中に包みこまれてはいけません。
生命の手だけしか、君達の心を包みとることは出来ないからです。
一緒にお立ちなさい。でもあまり近くにくっついて立ってはなりません。
寺院の柱は皆離れて立っていますし、樫の木やいと杉はお互いの木蔭の中では大きくならないものなのです。
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コメント
こんにちは。
私たちは結婚して約30年ですが、この詩を少しは理解できます。毎日一緒に生活しているからこそ「隙間」が必要なのでしょうね。
投稿: カトマンズ | 2006年7月17日 (月) 08:05