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2006年6月19日 (月)

「あけぼの―邪馬台国物語―」連載第7回

 二親を亡くしたわたしは叔母の家にひきとられ、花嫁修業に入ることになりました。あまやかしの中で、わたしはいささか野放図に育ちすぎたと叔母は思っていたようです。

 大人、下戸の身分に関わらず、女人(にょにん)に生まれついたからには、機織ができなければなりませんでした。ところが、わたしはこの世で機織ほど苦手なものはなかったのです。

 女たちは繭(まゆ)や草皮からとれる繊維を糸にし、その糸で絹や麻を織りました。定まった工程を確実に繰り返してゆきさえすれば、誰にでも、布を織りあげることができるはずなのですけれども……。

 不揃いな布目は、注意力の乱れを表現していました。思い……わたしの思いは、糸や機(はた)やちびちび出来あがりつつある布、といったものからすぐに遊離して、あの大空の、ふんわりとあまい雲のように、ぽっかりと空(くう)に浮かんでしまうのでした。

叔母の織りあげた布からは調べが、清涼な光が、そして、わたしの布からは雑音が聴こえ、ぼうとした光が見えました。

 叔母はため息をつき、向こうへ行ってしまいました。やがて、わたしを呼び、叔母とわたしは雑炊と鉢に盛ったグミで、お昼にしました。

「何を考えているんだか、あたしにはわからない。あなたの頭の中にあることは何なんですか?」

 叔母は頭痛を堪えているような顔をグミのすっぱさでさらにしかめ、深刻な口調でこうわたしに尋ねました。〔〕 

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