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2006年6月17日 (土)

「あけぼの―邪馬台国物語―」連載第5回

 わたしは周りを山々に囲まれたクニに生まれました。その山の一つは、父の管轄していた銅の採れる鉱山です。クニには、鉱山のことをよく知っている朝鮮半島からの渡来人が沢山住んでいました。

 生前、父は採掘場で見つけた小さな鉱石を、「この石はね、山の女神様がくださったのだ。お守りにするように」といって、わたしにくれました。石の反対側はすべすべし、光っていて、わたしの顔が映るのでした。

 この石と、不思議な女の人のくれた木の実が、今ではわたしの宝物なのでした。木の実はわたしの見たことのないものでしたが、後にクルミと知りました。

 父は大人(たいじん)と呼ばれる身分でした。クニに住む者は、大人と下戸(げこ)という身分に分かれていて、下戸は一般の人々、大人は下戸を統制する人々から成っていました。

 大人は特権階級とみなされ、その家に生まれたわたしはちやほやされて育ちました。こうしてあまやかされて育ったわたしは驕慢な子でしたが、子供ながらも平衡感覚は備わっていたのでしょう。年端もゆかぬ自分に贈られた贅沢な装身具をつけるのが後ろめたく、こっそり壊してしまったことがありました。

 また、両親はわたしが下戸の子供たちと遊ぶのを好みませんでしたが、泡のような歓喜は、下戸の子たち――、それも男の子たちに混じって遊ぶときに湧き起こるのでした。

 ウリボウを生け捕りにする、あるいは猿を追って木の枝から枝へと飛び移らんとする、そんな興奮極まる刹那、ふいに世界は原初の沈黙に還るかのようでした。

 こうした霊妙の体験をもたらす下戸の子たちとの交際に比べ、大人の子女との交際は、見かけのしとやかさとはあべこべの神経戦に似たところがありました。顔面がぴくぴくし出して、困ることがありました。〔

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