« 自作俳句「夏の思ひ出」 | トップページ | 「あけぼの―邪馬台国物語―」連載第4回 »

2006年6月15日 (木)

「あけぼの―邪馬台国物語―」連載第3回

 墓地は丘です。掘ると、白い地肌があらわれる丘――

 母のお棺が埋められるのを、わたしは離れた場所からじっと立って見ていました。ふと、背後からわたしの肩に厚い手が置かれ、「お母さん、これで安心だぞ」という従兄の声がしました。

 親類の者たちは彼を風、と呼びました。とどまるところを知らない人物だからです。皆の間で、従兄は居れば出来損ないの爪弾き、居なければ待たれる人なのでした。

 体はイノシシのようにがっちりしていて、眼は愛嬌を湛えてい、身のこなしはおっとりとしていました。わたしはこの従兄が、明るい乳色の雲と同じくらいに好きでした。

「どうして、安心?」
「人間は死ぬとな、魂が和魂(にぎみたま)と荒魂(あらみたま)に分離するんだ。和魂は天に帰還し、荒魂はお墓にとどまる。マナのお母さんも、あそこにとどまり処ができた。俺がいうのは、それぞれが落ち着き処を得て、よかったってこと」

 わたしは沈黙して、和魂と荒魂について考えてみましたが、よくは呑み込めませんでした。

「わたしね、風にいちゃん。考えずにはいられないの。お母さんが生きていたときにお母さんから出ていた様々な色合いや、お母さんの胸の奥からの真珠のような輝きは、何処へ行ったのかしら、って」

 従兄は上からわたしをごつく見、瞳の色を分かとうとでもいうように、わたしを見つめました。〔

|

« 自作俳句「夏の思ひ出」 | トップページ | 「あけぼの―邪馬台国物語―」連載第4回 »

自作小説「あけぼの―邪馬台国物語―」」カテゴリの記事