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2006年6月27日 (火)

れくいえむ ~その4~1995.4

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          死者は、
          彼の世へと赴くまでの一時を、しばしばわたしの家で過ごした。          
          肉の装いを捨てた、内的姿で――

          あなたは招かれざる客のように、
          不具合に感じられた。
          この世の様式をなくしているのに、
          彼の世の様式は、まだ使い慣れず……。
          電話台と食器棚の間や、散らかったテーブルと天井の間で、
          ふいにあなたの感じを見い出すのは、
          まことに奇妙なことだった。

          肉の装いを捨てたあなたは、元気な様子で、
          (死者の晩年を病気が傷めつけた!)
          変わりない気韻、知力、
          鋭敏で、
          好奇心と必要とから教え子の飾らぬ姿を見定めようとし、
          そのうち、
          自らの生涯の仕事についてのわたしの理解度に、
          懸念を覚えた様子で、
          遂には、その無理解ぶりを激しく怒り、
          行ってしまった――
          (瞬間、室内に干した洗濯物がみな落ちた)

          あなたの短気も、わたしの独善も、
          相変わらずだったけれと゜、
          思いやりの芳香は、
          さゆらぐ心と、なおも不滅の心の、
          察しあいから薫った。
          (なつかしい乳色の光が、いくたびかわたしを包んだ)

          後日、
          死者は彼の世から、便りを送ってよこした。
          無際限のうちとけにも似た、微笑に代えた便り。
          さしもの、
          わたしの硬い眠りをも、花ひらかせる便りを。
                              

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