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2006年6月25日 (日)

「あけぼの―邪馬台国物語―」連載第13回

 その秋のこと――

 じゃじゃ馬のわたしにして、生まれて初めての大患を経験しました。高熱のために譫妄(せんもう)状態にあったわたしは、訳のわからぬ声をあげたり、衣を剥ぎ取ってしまったりしたようです。

 臥して幾日目のことか、おぼろげな記憶の中に、客人の姿がありました。

 その姿は、わたしが病気になってから詰めていた祈祷師の姿とは異なる、もっと若々しい、長身の男で、腕に美しい文身(ぶんしん)(※刺青)のある手でわたしの体に触れました。

「一の峯でも、二の峯でも、三の峯でもよい。しかし、二の峯――ツゲの木の生える銅山の峯へ行くがよい。そして竜骨(たつのほね)(※を採って来なさい。竜骨は、道教で、仙薬と称される本草薬、石薬のうち、石薬の一つだ」と客人は家の中にいる者たちに告げました。

 そして今度は、褥(じゅく)中のわたしにやわらかに諭(さと)すのでした。
「わたしが持参した本草薬に合わせてそれを服すれば、おとめよ。病は癒えよう」

 もはや、わたしは危篤に陥っていたらしく、誰も彼も詰めていたようでした。竜骨は、その場に居合わせた従兄の風にいちゃんが、暴風雨の中を命がけで採りに行ってくれたということです。〔


1 竜骨は哺乳動物の骨の化石。現在の漢方では、これと粉末状にした牡蠣の貝殻を混ぜ、鎮静の目的で用いる。 

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