映画「ヒトラー最期の12日間」を観て―2005.10―(Ⅸ)
ナチス支配下における普通の人々の日常を明らかにした、デートレフ・ポイカート著「ナチス・ドイツ――ある近代の社会史」は次のようにいう。
「ナチ運動を支持したり、少なくともやむをえずこの運動をうけいれた多数のドイツ人が信じたのは、彼らを近代化に伴う混乱や、経済不況による窮迫などという異常な事態から救い出してくれるという『総統』の約束であった。
彼らが夢みたのは、ナチ指導部がユートピアとして漠然と考えていたような、人々をたえず闘争にかりたてる民族共同体ではまったくなかった。
多くのドイツ人が夢みたのは、正常な事態にもどること、安定した職に復帰すること、安心して生活設計ができ、社会のなかで自分がしめる位置に確信がもてるような状況をとりもどすことであった」
ドイツ系ユダヤ人アンネ・フランクは、ナチスの迫害の手を逃れて移り住んだオランダのアムステルダム市の隠れ家で1944年8月4日、密告によりゲシュタポに連行され、アウシュヴィッツ次いでベルゲン・ベルゼンの収容所に送られた。
そこでは女性収容所が未完成だった。冬になって環境が悪化していたが、アンネは姉マルゴットと共にそこに入れられていた。彼女たちは1945年3月に、相次いでチフスで死亡した。アンネの最後の言葉は、「ドアをしめて、ドアをしめて」だったという。15歳だった。
アンネは1942年6月12日の誕生日に、贈り物の包みを開ける。最初に出てきた贈り物が日記帳で、そこに書かれた「アンネの日記」はユダヤ人迫害を立証するものとして、また生命の尊さを物語る光として、世界的に有名になった。〔了〕
引用・参考文献
ヨアヒム・フェスト「ヒトラー」鈴木直訳、岩波書店、2005年。
トラウデル・ユンゲ「私はヒトラーの秘書だった」高島市子・足立ラーベ加代訳、草思社、2004年。
デートレフ・ポイカート「(改装版)ナチス・ドイツ――ある近代の社会史」木村靖二・山本秀行訳、三元社、2005年。
ウィリー・リントヴェル「アンネ・フランク 最後の七カ月」酒井府・酒井明子訳、徳間書店、1991年。
アンネ・フランク「アンネの日記 完全版」深町眞理子訳、文藝春秋、1994年。
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