創作の神秘(Ⅳ)
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わたしが通っている循環器クリニックでは予約をしなくてもいけるのだが、薬のなくなり具合で、どの日に行くかは決まってくる。4月の受診予定の日に出かけたら、緊急手術で、受診できなかった。心臓血管外科医の先生は、入院設備のないオフィス型のクリニックで、週に2回静脈瘤や人工透析のための内シャントといった日帰りでできる手術を行っておられる。
クリニックは歩いて15分で行ける距離だし、わたしは何しろ三食昼寝付きの専業主婦なので、受診できなかったことを別に苦にすることもなく、また翌日出かけた。前日受診できなかった患者でいっぱいだろうと予想した通り、ロビーは患者で溢れていた。受付の看護師さんが「昨日は申し訳ありませんでした」とおっしゃる。体重と血圧を測り、様子を窺い患者の不安を訊いてくる看護師さんも同じことをおっしゃる。診察時に先生も、「昨日も来てくれたんだってね。悪かったね、緊急手術でさ」とおっしゃった。
前日にわたしがちらと顔を見せた程度のことまで、報告が行き届いている。心臓から送り出された血液が、体内に張り巡らされた血管の隅々にまで届くみたいに。以前同じように受診できなかったとき、夜になって先生から様子を窺う電話があったこともあった。そういえば、検査にだけ出向いたときも、先生が何気なく出てきて、わたしの顔を確認だけしてまた引っ込んだ。あれも、変化がないかを確認するために出てきたのだろう。一見アバウトに見えないこともないクリニック内では、実に循環器科らしい管理がなされているということだろう。
ロビーで、わたしの隣に座っていた2人の女性が、先生の噂をして、頻りに褒めていた。何でも、先生は何とかという難しい研究を修めた権威で、他所で匙を投げられた患者が随分助けられた、噂を聞いて自分は車で片道1時間かけて、通っている……というようなことをおしゃべりしているのだった。左隣の綿貫衆義院議員に似ている女性は、弁膜症で、バセドー氏病もあり、ある日病院で点滴を受けていたときに血液が袋の中に逆流してしまったという。総合病院に搬送されて治療を受けたが、先生の評判を聞き、通院先をここへ替えたそうだ。他所の市から、半年に1度受診しているという。
そのまた左隣のリッチそうな、贅沢な装いの女性は、総合病院で部長をしていた時代の先生から大動脈瘤の手術を受けた。手術には6時間かかったとのこと。その総合病院にずっとかかっていたが、そこでは午前10時の予約で、実際に受診できるのは午後2時。ごく短時間しか診て貰えない、脈もとってくれない。診察を受けたという満足感に乏しいため、丁寧に診察してくれ、人間的にもよくできたここの先生に診て貰いたいと思ったという。
わたしも、ここへ通うまでは総合病院にかかっていた。リッチそうな女性がこぼしていた愚痴の内容と同じようなことを、わたしも感じていた。尤も、わたしには脈拍異常があるので、脈はとって貰えたが……。わたしは先生の評判については何も知らず、最初に受診したときに「おや、 ここは何だか血の匂いがする。ここの医師はドラキュラなのでは……」と思ってしまった。
この市へ引っ越してきたとき、それまで通院していた総合病院の主治医から紹介状を書いて貰っていたのだが、引っ越し先の街で見知らぬ呼吸器科に飛び込むという想定外の事態が生じた。そして、そうやって受診した呼吸器科で、この循環器クリニックを紹介されたのだった。迷いながらここへきたわたしに、先生は「本当に、うちでいいの?」と訊いてきた。いいのかどうか、そのときはわからなかった。
診察時に、先生に「患者さんたちが先生の噂をして、先生のことを褒めていましたよ」と教えると、先生はにやにやして、「えっ、本当? 何て?」と嬉しそうだった。気さくなので、本当に権威? 何の? と疑ってしまうほどだが、いつ見ても明るい先生の目には、感心させられる。まなざしの明るさは、春の光がその目を愛でて差し込んだかのようだ。目が釣り上がって見えるときは、緊急事態が発生したときなのかもしれない。
いつでも行ける理想的なホームドクターがほしいと、わたしはずっと願っていた。先生は、そのホームドクターの理想像に近かった。呼吸器科の先生も、またタイプは違うが、理想像に近い。ステロイドの常用という、ただ1点の不安材料を除けば……。両医師との関係は続けていきたいし、医療不信から民間療法に走るといった風の愚を冒すつもりは決してないのだが、試せる範囲内と自分で感じられることは試してみたかった。(続)
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コメント
お邪魔させて頂いております。こんばんは。いつもまめに更新されていて、すごいなと思います。
ウッフくんと遊ばせて頂きました。ハーボカート。 その後は、黙々と本を読んでいましたよ。
それでは、また。
投稿: 美亜 | 2006年4月21日 (金) 20:34
美亜さんもバルザックの「イブの娘」、英語版からの訳とはいえ大変でしょう。「谷間の百合」でちょっと情けなかったフェリックスがどう成熟していくのかが楽しみです。お仕事に差し支えない程度に頑張ってください。
投稿: マダムN | 2006年4月22日 (土) 09:18