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2013年10月 5日 (土)

男のロマンゆえに形式を踏み外した(?)2編――河津武俊 (著) 『森厳』、谷山稜『最後の夏山』

 dangerネタバレありですので、これから読もうという方はご注意ください。

 男のロマンゆえに形式を踏み外した(?)2編――河津武俊 (著) 『森厳』、谷山稜 (著) 『最後の夏山』に続けて出合い、傑作なのか、駄作なのか、判断に戸惑い悶々としてしまいました。

 駄傑作としか、わたしにはいえません。どちらも端正な筆致であり、知的な作風でありながら、形式を著しく踏み外しています。

『最後の夏山』は以下のキンドル情報サイトで知りました。

 サンプルをダウンロードしてみて、『最後の夏山』の山や登山する男たちの描写に惹かれて購入しました。

 単行本では何頁あるのでしょうか。読み応えのある枚数でした。山の描写のすばらしさだけでも一読に値します。シュティフターに匹敵するとすら思えました。

 しかしながら、それは物語の三部の一ほどで終わり、カラーが著しく変わるのです。山岳小説が修験道の仙人めいた人物が出てくる怪異譚となり、それが変則的自殺(心中)小説となって終了します。

 山を神聖視する男性が恋をし、山か女性かで悩み、悩むあまりに解決を急ぎすぎる内的な遍歴物語といったほうがよいかもしれません。

 女性の側からすれば、山の中毒になった人を救おうとして自分も中毒になってしまった悲劇の物語ともいえるかもしれません。

 パーヴェル・バジョーフの銅山にとり込まれてしまう石細工の物語『石の花』を連想してしまいましたが、惜しむらくは『最後の夏山』は書き急いでいる印象があります。

 バジョーフの作品が哲学的深みを感じさせるのに対し、そこうした部分での弱さを感じさせます。別の作品を3編くっつけたような違和感を生じるのも、そこのところに原因があるのではないでしょうか。

『森巌』は非常に暗い小説です。殺人を犯した男性が死刑になる直前に書いた手紙を読んだノンフィクション作家(ビジネスホテルの経営と兼業)が、その男性のことを知りたくなり、ひたむきにリサーチするお話。

 新聞や法律の専門雑誌「ジュリスト」(だったかな?)を読んでいると錯覚を起こしてしまうほど、事件に関する記事や裁判録が多用されています。

 大衆文学にあるような事件物ですと、ほどよいところで女性が絡んできて濡れ場が出てきたりしますが、この作品にはそうした場面が一切なく、ひたすら暗い。

 語り手である作家の誠実さがほのかな光となっているという風です。特に心惹かれる人物が出てくるわけでもなく、ご当地的な土地の描写が複数出てきたりすると、語り手は深刻なのか、単に旅行気分なのか、不明です。

 
 ところが、森厳な月が出てきたとき、わたしにもそれが見えた驚き。人の世を照らすこの月が主人公だったのだとわかりました。著者が暗いトーンを幾重にも塗り重ねていったのは月を際立たせるための効果だったのではないかとすら思いました。

 正直いって、それが河津さんの技法なのか、偶然そうなったのかがわからないところです。月が登場するまでの自然描写が抑えられているのは、明らかに技法でしょうが。

 凄惨な殺人の犠牲となった人々への同情に拮抗できる、肝心の死刑囚に感情移入できるだけのもの――それはその死刑囚の不幸な境遇ではなく、人間的な魅力以外にありえません――が描かれていなかったところに作品としての欠陥があるように思えました。

 現在、アマゾンでの表示には表紙画像がありませんでしたが、美しい表紙です。

 

 いずれにせよ、男のロマンを感じさせられる2編でした。

 河津さんが山の描写に手腕を見せた『耳納連山』。

 秀逸な自然描写で知られるシュティフターの短編集『水晶 他三篇―石さまざま』。『水晶』は児童文学作品としても親しまれています。

 バジョーフ (著) 『石の花』は大人も子供も楽しめる名作です。

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