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2011年9月13日 (火)

心願こもる島田勢津子著「イルカを待つ海」(編集工房ノア)

 昨日、サイドバーからリンクさせていただいているブログの管理人simasetuさんが、ご著書「イルカを待つ海」(編集工房ノア)と同人誌「黄色い潜水艦」を送ってくださった。

売れない主婦作家生活
http://ameblo.jp/dolpfin0218/

 一編一編は、粒選りの葡萄のような潤いを感じさせ、ひ弱な雛のような柔らかさがあるのだが、全体を鳥瞰したときに建築群のような重厚な印象が残るのは、その一編一編が強度のある社会性を備えているからだろう。ひじょうに知的に構築された作品群という印象を受けた。

 大変な執筆作業だったと察せられるが、作者のそうした作業を支えたのは、モチーフの強さだろう。特に、力量の感じられたのが、本の題名ともなっている『イルカを待つ海』と、同人誌に掲載された『おとうと』である。ドラマにもなりそうな『イルカを待つ海』と、それとは対照的なリアリズムタッチの『おとうと』。

 『イルカを待つ海』は、リリックな美しさを備えた珠玉の一編。療養所を舞台とした恋愛を中心に、当時の閉鎖病棟の問題点、主人公の周囲の人間模様が過不足なく織り込まれ、ドルフィンのキーホルダーがシンボリックに用いられて、流れるような筆致で描かれている。読み進めるごとに、恋人たちがロミオとジュリエットのように思えてくる。精神医療の断面に光を当てた、歴史的、資料的価値のある作品ともなっていて、貴重だと思う。

 『おとうと』は、姉の視点から弟の生きざまと死を描いた作品。弟の内面に何とか肉迫してその人生を理解し、位置づけようとする姉のせつない心情が、月の下で寄せては返す波のような光沢感を見せる一編。弟を見つめる姉のまなざしには、弟を一個の人間として尊重しているがゆえの距離感があり、月の光のような慈愛とその核にある哲学を感じさせるのである。「イルカを待つ海」に収録された『ロストタウンのはずれで』の続編としても読めよう。

 作風に映画的手法が取り入れられて、登場人物の表情や仕草などが挿入されれば、より奥行きを感じさせる芸術的作品となるのではないかと思った。

 昨今のゲーム感覚で書かれているかのような、あざとい技巧作品の多い中、心願こもる作品を読ませていただけたことは悦びであった。

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