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2011年5月25日 (水)

シモーヌ・ヴェイユの姪が書いた『アンドレとシモーヌ ヴェイユ家の物語』

 


 シモーヌ・ヴェイユに関する暴露本? いやはや、暴露本といえば、暴露本だ。赤い処女といわれたシモーヌには生涯一度だけ、レジスタンスの男性と肉体関係があったというのだから。

 しかも、その情報源といえば、シモーヌの幽霊ということになるのだ。その幽霊は2度出現したという。シモーヌ・ヴェイユの後半生に特徴的なキリスト教的神秘主義の傾向と、そこから出た格調高い霊的表現に比べれば、姪のシルヴィの表現は心霊的としかいいようのないムードを伴っているように思う。

 いずれにしても、これで、実存主義を支えたふたりのシモーヌに関しては、どちらも暴露本が出たことになる。シモーヌ・ド・ボーヴォワールに関する暴露本を書いたのは、教え子だ。

 

 実は、『アンドレとシモーヌ』は、昨日入手したばかりで、読み終えていない。読み始めたばかりの昨日の時点では、何だか嫌気がさしていた。上に書いた部分を拾い読みしてしまったのがいけなかったのだろうが、なにしろ下記のような出だしなのだ。
“今までに一度ならずとも、叔母のシモーヌ・ヴェイユを否定するという事態に陥ったことがある。私はこの叔母との血族関係を、あたかも一族にいる薄弱児を厭うように恥じていた。このことを知って傷つく人もいるだろうし、ひどく馬鹿げていると思う人もいるだろう。しかし事実なのだ。”
 わたしはどうしても、シモーヌ・ヴェイユの明晰かつ繊細な――まさにノーブルといってよい文章と比較してしまうのだった。それに比べたら姪シルヴィの文章は通俗的に思えた。評伝的筆致になるかと思うと、感傷的なモノローグ風の表現になったりし、回想が時系列で書かれていないことから来る読みづらさもあって、翻訳ももう一つかと不満を覚えた。

 パラパラと本をめくって拾い読みするわたしの悪い癖は、弁解になるが、時間のなさに原因がある。つまらない本に関わっている暇がないので、手っ取り早く内容を知る必要からついそんなことをしてしまうのだった。

 しかし、今日読み進めたところでは、意外に奥行きのある、バランスのよいシモーヌ・ヴェイユに関する評伝とも思えて来た。

 シモーヌ・ヴェイユには欠けていたユダヤの伝統にシルヴィは詳しく、シモーヌのように自らのユダヤ系の血筋を否定するような偏見はシルヴィにはない。

 また、ときにあくどい書きかたをしながらも、彼女が父アンドレと叔母シモーヌを誇りに思い、どこか絶賛しているようにすら思えるところのあるのが何だか微笑ましい。サリンジャーの娘も暴露本を出して父親を告発しているが、シルヴィはむしろパパっ子という印象なのだ。

 要するに、著名人を持つことから来る様々な迷惑を被ってきたため、シルヴィは防衛的になっていると思われる。大衆は――やっぱりというべきか――シモーヌ・ヴェイユの哲学に興味を持つより、シモーヌの死にかたや聖女伝説に拘ったようだ。

 聖女伝説をつくりあげるのに熱心だったのは、他ならぬシモーヌの母親、つまりシルヴィの祖母セルマだったということも明らかにされる。

 だがシルヴィは、フランシーヌ・デュ・プレシックス・グレイが『ペンギン評伝双書 シモーヌ・ヴェイユ』で母親セルマとシモーヌの癒着現象に鋭くメスを入れ、シモーヌを拒食症と断じたような書きかたはしていない。

 度の過ぎた子煩悩、といった捉えかたで済ましている。祖母の作るお菓子の味を知っている、身内の書きかたといってよい。

 シルヴィ自身、小さな頃はシモーヌの再来とばかりに祖母セルマに可愛がられたようだが、そうした母親の傾向を嫌うシモーヌの兄アンドレの存在がこの家族における自浄作用となって、シルヴィは祖母の餌食とならずに済んだようだ。

 シモーヌの親友であったシモーヌ・ペトルマンによって書かれた詳伝、シモーヌの信仰形成に寄与したぺラン神父と農民哲学者ティボンによる回想記、そして前掲のシモーヌの問題点を追及したグレイの研究書に、今度また姪シルヴィの貴重な著作が加わって瑞々しい光が当てられたわけだ。

 シモーヌ・ヴェイユは、シルヴィの誕生の約1年後に亡くなったという。ペトルマンによる詳伝を読んだ人間であれば、シモーヌがシルヴィにミルクを飲ませる姿を思い浮かべることができるだろう。わたしもそうで、あの赤ちゃんが……という不思議な気持だ。



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