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2009年5月 5日 (火)

友人とちょっと重いおしゃべり

 詩人(とわたしが呼んでいる学生時代の先輩)が最近落ち着かず、何だか支離滅裂なことばかりいうし、しきりにわたしに助けを求めてきた。

 わたしは昔から、彼女にとって、藁よりはいくらかましな木片なのだ。

 彼女が藁にも縋るほど心乱れていて、妄想に蹂躙されているときでも、そこまでなる主要な原因が必ずある。これまではそうだった。

 彼女の統合失調症の波から逃げないで、じっくり相手にならなければと思いながらも、わたしはそうすることを避けていた。

 そうなると、彼女は手をほしがる子供と同じだ。

 一昨日の午前中電話があり、出そびれたが、詩人だろうと思った。

 2時間後にまた電話があり、留守電に入れる彼女の声がしたが、わたしは迷いつつも出なかった。彼女らしい礼儀正しい話し方だが、うつろな感じで底知れない陰気さを伴っている。

 彼女はよく聞き取れない声で愚痴をこぼし、次いで忙しいわたしの心配をし、電話してくれといって切った。

 電話してくれといっている、もう逃げられないぞ、勘弁してくれ……相手にならなかったら彼女は自殺するかもしれない(昨年2度未遂があった)。ああご自由に。そこまで知るもんか。わたしのせいじゃない。父たちだって知るもんか。疲れているんだ、わたしは。何だってわたしの周りには、キチガイとかそれに近い人間ばかりいるんだろう。わたしの末路もそこへ行き着くんだろうな……と思った。

 裁判官が替わったことで、今年の2月から専念せざるをえなかった件の解決は近いと思われたが、父たちのことが解決するわけではない。そんな鬱々とした自身の悩みや体調の悪さもあり、詩人の病状がよくないことはわかっていながらも、このところしきりにかかってくる電話が億劫で、わたしは忙しさを口実に無難に応じていた。

 そして、留守電のときは出たくなかったのだ。それが夕方まで続いた。彼女をずっと支えて来られたご家族のお顔が浮かんだ。とりわけ、お母様のお顔が。そのお顔は、わたしの記憶の中では、昔お目にかかったときのままだ。

 夜になり、夕飯の支度が一段落したところで、よし、取り組もうと思い、電話をかけた。木片になる覚悟を決め、一緒に漂ってやるさと思う。

「お待ちしていました」と彼女。

 彼女は敏感な人なので、受け入れ態勢? の整ったわたしの雰囲気を感じとったらしく、やや明るいムード。

「で、彼と会って怖かったんですって? どうしたんですか?」と単刀直入に、興味深げに訊いた。聴く態勢さえ整えば、作家の卵のわたしには興味深くないことなど、およそこの世にない。

 こんなわたしの態度は、彼女を喜ばせる。妄想混じりの彼女の話ではあったが、ポイントを押さえるのに時間はかからなかった。それが、今回の彼女の不安と混乱の核心だろうと思われた。

 だが、その彼女の悩みは彼女に特有な悩みというより、多くの女性に共通する悩みといってよいものだ。それは、男に関する悩みだった。

わたしは毎日それに類したことを考えていると彼女に伝えた。別の男に逃避しようと考えたこともあるが、近頃はどの男も同じに見えてきたと我ながらトボけた口振りでいうと、彼女は噴き出した。

「結婚してからも、別の男性にときめくことがおありになりますの?」と、離婚歴があり、その離婚した男性と交際を続けている彼女は、貴族のような言葉遣いで少女のように訊いてきた。月一の割合であちこちの男にときめいてきたというと、彼女は爆笑し、わたしも噴き出した。

 元々がユーモアに満ちたセンスのよい会話をする人なので、こうなると楽しい。体調のよいとき、彼女は爽やかで素敵な人だが、妄想なのか悪戯なのかわからない会話が混じったりするのも、いくらか刺激的ではある。

 彼女は英語が上手で、近所の子供たちに教えていたが、わたしにある単語をいって、本来はないはずの意味を教えて面白がることがある。他にもわたしの記憶や能力を試されていると感じることが、普段でもよくある。子供みたいに茶目っ気があるのだが、これを書いている今でも、あの単語のことはからかいにしても、八百屋さんの話や秘密裏に行われたという同窓会の話は腑に落ちず、からかわれたのか彼女の妄想から出た話なのか判然としない始末。

 入浴していた娘があがってきた。娘は詩人のファンなので、電話を替わると楽しそうに話していた。

 あとで、「詩人さんの調子が悪いといっていたのに、ずいぶん爆笑していたね」と娘がいった。そう、楽しい会話となって、昨日は電話がなかったから、今回の嵐は過ぎ去ったと思う。

 こんな調子で30年近くやってきた。彼女には病気の波があるが、わたしにも気分の波があり、同情だけでは付き合えない。が、不思議にも赤ん坊が憎めないように、彼女本来の魅力に加えて、病気がもたらしたとしか思えない憎めなさがある。

 同様の何かしら憎めなさが父夫婦にもある。いや、わたしは憎んでもいるのだろうが……。

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