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2008年8月10日 (日)

山岸凉子『テレプシコーラ』第2部・第9回を読んで

Link soon new 山岸凉子『テレプシコーラ』最終回の感想

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 「ダ・ヴィンチ2008月10月号」掲載の山岸凉子著『テレプシコーラ』第2部の弟9回を読みました。ネタバレの可能性がありますので、それが平気なかたのみ、以下の続きを読むをクリックくださいね。 

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 第1部の第4巻(『舞姫テレプシコーラ 4』メディアファクトリー、2003年)で姿を消した須藤空美。第2部で早くも登場した、アメリカ国籍のローラ・チャン。

 骸骨を連想させるまでに痩せこけた空美。「背高くてきれいな切れ長の眼……オリエンタル・ビューティだよね」と主人公の六花に呟かせたローラ・チャン。

 この2人を同一人物と感じさせるものがあるにも拘らず、国籍の違いが読者のわたしにとっては問題だった。

 ところが、前掲の「ダ・ヴィンチ2008月10月号」で、ついに山岸凉子が物語の伏線の一端を読者の目に明らかにしてみせた。

 ローザンヌ国際バレエコンクールの出場者の1人らしいアメリカ人に見える青年が六花に英語で声をかけてきて驚かせた後、日本語でこんなことをいうのである。

「僕ハーフ、お母さん日本人。お父さん、アメリカ人。おまけに日本育ち。ローザンヌは日本人ワクが厳しいから、アメリカ国籍で応募したんだ。けど今はヒューストンのバレエ学校に行っているから嘘じゃないよ」

 この国籍の話、わたしにはもう一つ呑み込めないところではあるが、青年の話を参考に考えると、ローラ・チャンも彼と同じような細工により、アメリカ国籍で応募したと考えられなくもないではないか。だとすれば、ローラ・チャンが日本育ちの空美であってもおかしくはない。とはいえ、名前まで違うというのは、どう考えればいいのだろう?

 しかしながら、そもそも、細工はお手の物なのかもしれない。

 空美一家は「ほとんど夜逃げ、家賃ふみたおし」て行方をくらますのだが、その直前に空美は埼玉全国舞踊コンクール・クラシック部門2部に性別を偽って出場し、それが発覚して棄権するという愚挙に出ている。

 それは空美の伯母、須藤美智子の差し金だった。「空美のご面相じゃ、どんなに上手に踊っても無駄よ。これなら空美でも踊れるわ。そうよ優勝でも何でもして、みんなの鼻をあかしてやるといいのよ」といって、ブルーバードの男性ヴァリエーションを踊らせたのだった。

 須藤美智子は10代で海外に渡り(「わたしがアメリカに渡るのがそんなに許せないのかしら」という美智子自身の言葉からすると、アメリカだろう)、今日のクラシックバレエの基礎となった正統のワガノワバレエを身につけた天才プリマだった。

 大怪我をして帰国し、今では車椅子の生活というだけでなく、甲斐性のない弟のために破産の憂き目を見ている。さらには徘徊をしたり、辻褄の合わない言葉を口にするなど、精神状態も普通ではない。

 それでも、美智子は一貫して姪の空美に厳格なワガノワ・メソッドを叩き込んできたのだった。空美は、美智子が帰国して1人だけ取った内弟子と弟の間にできた子供である。

 空美は荒廃した生活環境にありながらも、伯母の教えの意味がわかっているようだ。淡々とバレエのことだけを考えて生きているようなシンプルさが空美の持ち味であり、そっけなく、コミニュケーションの意志には欠けるけれど、彼女に性格の歪みはない。シャイなところもあって、どこかしら可愛らしさがある。強烈な個性の持ち主といってよい。

 その空美の面影が、ローラ・チャンにはある。ローラ・チャンが空美でないとするなら、その造形は何のためのものだろう。物語の収拾がつかなくなるような、そんな愚を周到な山岸凉子が冒すはずがない。

 一家蒸発してから、空美はどんな人生を歩んできたのだろう? 伯母の美智子はどうなったのか? 物語の今後の展開が大いに期待される。

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