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2006年9月29日 (金)

「あけぼの―邪馬台国物語―」連載第63回

 おしゃべりのしすぎでわたしの声が掠れてしまうとお師匠さんは笑い、手を叩いて、奴婢(ぬひ)に、高杯(たかつき)に盛った桃の実を持ってこさせました。

 ケヤキの木目をデザインに用いた木製の高杯です。器集めが趣味の叔母が見たら、眼を見張りそうな食器でした。盲目のお師匠さんの家には、趣味のいい器が数々ありました。

「桃の実でも含んで、喉を潤しなされ。そういえばじゃ。隣のフミのクニにの、道場を開いて、鬼吏(きり)の為すような病気治療をさっしゃる婆様がいられる。何でも、かの大国に渡り、じかに教えを受けなすったという話じゃよ。

 眉唾ものかどうかは知らんがの。

 そいでも、確か生まれはヤマトで、宮中に仕えたこともあられるおなごじゃ。仕えたというても、女王様のお祖父様が王だった頃の話で、女王様よりか、五つ、六つ、年上じゃろ。

 女王様のお父君は、お体が弱うあられての。祖父王が崩御なされてからは、倭国は乱れた。病床のお父君も崩御なされた。

 そこで、芳紀15歳のおとめごであられたヒミコ様が女王に君臨なされたんじゃ。神々しい、初々しい、女王の誕生じゃった。

 明君、祖父王の手塩にかけられた姫君じゃ。既に若き女王の名望は遠いクニグニにまで及んでおったが、ご苦労もたんとなされたろうの」

 女王の話題に、わたしは胸が詰まりました。家路を辿りながら、わたしは泣きに泣き通しでした。

 どうしてでしょう、と自分でも呆れるほどでしたけれども、芋名月の夜の真っ白な月のような女王のお顔、ヤエミ様の清麗な立ち姿、ダイナミックにして澄んだ光(オーラ)を持つ栗色の膚のタル。ああそれに、笹の葉のような瞳のヨモギの面まで、次々に脳裏をよぎっては、泣けて仕方がないのでした。〔〕 

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