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2006年9月10日 (日)

「あけぼの―邪馬台国物語―」連載第52回

 イサエガが側近の立場を利用して女王の御座所にじりじりと迫ってゆく光景は、わたしの夢の中のものではありませんでした。

 タルもわたしも感じていましたし、他ならぬ女王その人こそ、その幾層にもわたる感性の中間層が曇ってしまう原因を察知し、ひそかに警戒や思案を重ねていらっしゃったに違いありません。

 女王の眉間に深く刻印された一筋の皺は、童女のように微笑なさるときですら消え残るようにおなりでしたし、お胸の痛みをときに訴えるようになられたのも、あの頃からであったように覚えます。

 そして、そんな不穏な気配に心なしかヨモギがエールを送っているようでした。

 新穀祭の舞姫となっていたわたしはその頃、女王のお側近く出入りするようになっていました。イサエガが当初からわたしに眼をつけていたのは確かでした。

 そして、わたしがそこはかとなく至聖所の雰囲気を帯び始めた頃を見計らって、衣と一緒にわたしから巫女の資格を剥ぎ取ったのでした。

 それでもいいと、わたしはあのとき思ったのです。わたしだって、女王のお側近く出入りする側近の一人でしたから、ただのおとめというわけではありませんでした。〔

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