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2006年7月25日 (火)

「あけぼの―邪馬台国物語―」連載第36回

「早く、早く」と、彼女はわたしをせかします。わたしは彼女にいわれるがままに、黄昏の水で体を清め、白い衣を纏いました。

 あとでわかったことですが、茶色の衣はここでのわたしの普段着であり、白い衣は正装のための衣なのでした。蕁麻疹や湿疹に効能のある栗の樹液で染めた茶色の衣が、普段着として用いられていたのです。

 何が何だかわからぬまま、白い衣を纏ったわたしは、手に新芋の器を持ち、お祭りの行列に加わっていました。

 松明(たいまつ)をかざした一行は、しずしずと川を目指して進んでいきます。白い衣を纏った女性たちからなる長い行列でした。その行列を、どこからともなく集まってきた大勢の老若男女が見守ります。

 今宵はまこと、一年中で最も月の美しいとされる名月の夜なのでした。穂芒に、初物の芋や栗やお団子を備えて、月を祭ります。

 女王の一族は、月を信仰する一族なのでした。

 太陽に対して太陰とも称される月。月ほど、古代からその神秘性で人を惹きつけてきたものが他にあるでしょうか。月神を信仰するということ自体に、何かしら、太古の薫りがあって、女王の一族は、それだけ古くから続いてきている一族なのでしょぅ、とわたしは想像するのです。〔〕 

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