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2006年7月 7日 (金)

「あけぼの―邪馬台国物語―」連載第25回

 ナシメさんの隣に同じ外交官のトシゴリ氏、その向かい側に座っているのはまぎれもない彼、イサエガでした。

 結婚の相手と間違えた失礼はありましたが、命の恩人の彼。わたしにどう声をかけてくれるのかしら、と胸をときめかせていたのですけれど、イサエガはそ知らぬ顔で座っていました。

 端麗なる男、イサエガ! ああ、けれど、精妙で冷たく、輝きのないイサエガの雰囲気は、謁見室を唯一不安にする闇でした。

 イサエガは、後になってわたしに物語りました。

『わたしはマツラのクニで生まれた。

 光きらめく磯遊びを想像するだろうか、おとめよ。生憎、そんな呑気な境遇ではなかった。わたしの父は持衰(じさい)、母は海女だった。

 大人(たいじん)の好む青大勾玉、つまりアワビ真珠を獲るために、海女がどれほどの辛酸をなめるものか、そなたには想像もつくまいな。

 アワビがとれること自体稀なのだ。ましてや、獲れたアワビを何百、何千個ひらいたところで、真珠などめったに見つからぬものだが、奇蹟に近い幸運を信じて、海女は海にもぐる。

 海の底まで沈んでアワビを獲る肉体的な辛さは、相当なものである。母は優秀な海女だったが、ある日、海からあがったとたん、おとめよ。口や鼻から血を噴いて息絶えてしまったのだ。

 あたかも、海は桃真珠色に輝いていた』〔

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